ウイスキー原酒の熟成

ウイスキー

フロム・ザ・バレル 500ml

出来たばかりでまだ風味や味が荒削りなウイスキーは熟成により複雑でまろやかに変化させる必要があります。

熟成はウイスキーを製造する工程において99パーセントの時間が熟成に費やされます。

製麦から仕込み、蒸留までのニューポット作りの工程は10ヶ月程ですが、熟成の期間は長いもので10年以上もの期間貯蔵し、熟成します。



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貯蔵環境

貯蔵庫はあまり気温が高くなく、湿度の高い、空気の綺麗な環境が適しています。

そして寒暖差のある四季の変化、適度な温度変化や湿度変化があるのが良い条件です。

ウイスキー用の樽は基本的に横向きに寝かせて並べられます。

樽の置き方は、並んだ樽の上に板を敷いて、そのうえにさらに樽を並べていくダンネージ式と貯蔵庫を何段もの床で仕切り、それぞれの床に樽を寝かせるラック式があります。

ダンネージ式の場合は輪木積みともよばれ、樽は3段から4段に積むのが限界ですが、ラック式は10段以上の床で仕切られていて、樽を高く積める貯蔵庫になります。

ただしカナディアンなどでは、樽を縦にしてその上に板を敷いて、何段も重ね置きするパラダイス式を採用するところもあります。

横にして積むよりもスペースが省けて大量の樽を置くことができますが、側面の板に負担がかかり液漏れを起こしやすいです。



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樽の内部

例えば初夏から秋口にかけては、気温の上昇と共にウイスキー原酒の容量が増します。

樽も温度上昇に伴って膨らみを増しますが、原酒の増量分を吸収するほどではありません。

そのため、樽内の気相の占める容量が減少し、圧縮され、樽の気圧は樽の外に蒸散します。

一方、晩秋から初春にかけては気温の下降とともに原酒の容量が収縮します。

樽も収縮はしますが、原酒容量の収縮分を吸収するほどではないため、樽内の気相部分の容量が増し、樽内気圧は相対的に低下して外界からの空気が樽の中に吸収されます。

このように、温度の上下に伴ってウイスキー原酒が酸素を吸ったりエチルアルコールや揮発成分を吐き出したりするさまを、昔からウイスキーの呼吸と呼ばれています。

微妙な気温の変化を原酒にしっかりとウイスキーの原酒に伝えるためには、十分に自然乾燥した樽材で、丁寧に樽を作らなければなりません。

少しでも漏れがある樽や、乾燥の足りないため外界の変化への対応が鈍い樽などはウイスキーの貯蔵には利用できません。

天使の分け前

ウイスキー樽の呼吸によって樽から蒸散するエチルアルコールなどの揮発性成分の量は、貯蔵庫のある土地の気候によって変わってしまいますが最初の年は2~4パーセント、それ以降は年に1~3パーセントであると言われています。

これはどんなに計算されて丁寧に作られた樽に貯蔵した場合でも避けられない目減りであり、ウイスキーを十分に熟成させる上でも大切な目減りです。

そのため昔からこの蒸散による目減りのことをエンジェルシェア、つまり天使の分け前と呼んでいます。

天使は酒好きなのか、480リットル樽であれば最初の年で10~20リットル、それ以降は年に5~15リットルのウイスキー原酒を蒸散させています。

蒸散の必要性

蒸散して樽から出てゆく成分の主要なものはエチルアルコールですが、それ以外の揮発性成分もあります。

とくに貯蔵初期には熟成のために不必要でむしろ害がある未熟成香が蒸散します。

例えば作りたてのウイスキー原酒には硫黄化合物という、ウイスキーの香味を損なう成分が含まれています。

これらの未熟成香が樽が呼吸することによって揮発し、蒸散させます。

初めのうちは未熟成香などが含まれた荒削りな香味であったウイスキーの原酒が、蒸散によって次第に落ち着き、最後には悪質な未熟成香がなくなり樽による複雑で多様な香りをもつ素晴らしいウイスキーが出来上がります。

これを昔の人々が天使の仕業だと思っていたとしても仕方ないのかもしれません。

水分の移動

樽の、内部と外部では空気の他に水も出入りしています。

エチルアルコールなどの揮発成分は樽の外部に蒸散してしまうとほとんど全てが空気中に散らばって戻ってきません、しかし水は樽を概して出たり入ったりしています。

水は貯蔵庫の湿度によって動きが左右されます。

冬を中心に湿度が低い乾燥した時期には樽から水分が蒸散しやすく、逆に梅雨から夏にかけての湿度の高い時期には外気の水分が樽の中に入ってきます。

アルコール度数の変化

樽に入れられたばかりのニューポットはエチルアルコールの濃度は約60パーセントですが、長い貯蔵を終えたときのエチルアルコールの濃度は必ずしも60パーセントではありません。

貯蔵終了時点でのエチルアルコールの濃度は、貯蔵庫で貯蔵している期間のエチルアルコールと水の蒸散量のバランスによって決まります。

貯蔵中のエチルアルコールの蒸散量と水の蒸散量のバランスがつり合っている場合はほぼ60パーセントになりますが、エチルアルコールの蒸散量が水の蒸散量より多い場合や、樽を介して入ってくる水分の量が多い場合には、ウイスキー原酒中の水に対するエチルアルコール揮の比が小さくなるため、エチルアルコールの濃度は60パーセントより低くなります。

希に貯蔵を終えたウイスキーのエチルアルコールの濃度かが貯蔵前より高くなることがあります。

温度が高く湿度が低状態で貯蔵されたものが、アルコール度数が高くなりやすいです。

水分

全く動けない場合の水分活性は0ですが、エチルアルコール60パーセントのニューポットの水分活性は約0.7ほどになります。

そして水の蒸散量は水分活性とおかれている環境の相対湿度に欲求決まります。

水分活性が0.72であるということは相対湿度72パーセントのときの水分子の動きと同じであることを意味しています。

そのため、水分活性0.72のウイスキー原酒の場合、それがおかれている環境が相対湿度72パーセントよりも低い、すなわち乾燥した状態ではウイスキー原酒の中の水は蒸散するが、72パーセントより相対湿度がたかい場合には、逆に外気からの水分がウイスキー原酒に取り込まれることになります。

昔から貯蔵庫の環境は湿度が80から70パーセントぐらいの湿っぽい環境が良いとされています。

この範囲であれば水とエチルアルコールの蒸散量のバランスがよく、貯蔵後のエチルアルコール濃度がそれほど大きく変動しません。

熟成による成分変化

ウイスキーの成分はニューポット由来成分と樽由来成分とに分けられます。

ニューポット由来成分とは、貯蔵前までの製麦、仕込み、発酵、蒸留の各工程で生成した成分に由来する成分であり、樽由来成分は貯蔵中に樽由来のオーク材から徐々にウイスキー原酒に取り込んだ成分と、その成分がさらに変化し反応しあいながら出来た成分群です。

ウイスキーは貯蔵期間が長いため極めて多様な成分が出来上がります。

ウイスキー原酒の成分は蒸留により揮発成分が集められたものなので主成分はエチルアルコールと水ですが、その他にも微量ですが多くの揮発性成分が含まれています。

そのうち主要なものはアルデヒド基をもつアルデヒド成分、水酸基をもつアルコール成分、カルボキシル成分をもつカルボン酸、エステル結合をもつエステル成分などがあります。

とくにβ-ダマセノンという成分はワインなどにも含まれているバラの香りがする香気成分なので嗅ぎ分ける訓練をしてみるのもおすすめです、人は匂いに関する感度が強いので微量であっても揮発性成分の量や組成の違いは大きな意味を持っています。

まとめ

ウイスキー原酒はまず貯蔵して半年くらいでニューポットは淡い黄色になり、それと共にエチルアルコールの刺激的な強い香りが抑えられてきます。

さらに2年、3年と経つにつれて淡黄色から黄褐色に変わっていくとともに熟成香りが出てきて、この初期の期間中に蒸散が進み品種も大きく変化します。

しかしその後も熟成は進行していき、芳香はより強まり、10~12年のあたりで品質が良くなります。

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