ライターさん向け・電子辞書に収録されない「辞書・文章術・読書術」特集
電子書籍や大変な節約になりますが、SNS・ブログ・紙媒体を問わず、ライターさんに求められるスキルをすべて覆いきれるものではありません。
近年では役立つ書籍の収録も目立ちますが、やはり個別で購入したいものも存在します。
ここでは、そういった「電子辞書のお供になりうる」辞書・書籍を、4冊ピックアップして紹介します
文章術の基礎「数学文章作法」
名著となる経緯
教養ブームの初期、主著「数学ガール」が大絶賛された数学者・結城浩氏の手になる文章術。
前述の書籍は、統計学の重要性が訴えかけられたときに「文系でも理解できる数学知識を」という要望に応えるかたちで著されたものでした。
「数学文書作法」は基礎編・推敲編の2部に分かれており、kindle書籍でも配布されています。
序説にもありますが、これは結城氏の「本を書くときの心構え」をまとめた上で、彼自身の文章術向上のための訓練でもあると述べられています。
文体としては、現在多く発刊されている新書の先駆けと言えるでしょう。
定番の「読みやすさ」に加えて、テンポよく初級~上級の文章術を網羅しているため、ビジネス誌での書評・文章術に関する新刊への引用がさかんにされています。
「書く」学生〜社会人の必携書
作中の例文は全て数式を含むものの、専門的な内容を排するように腐心されています。
繰り返し強調されるのは、「読者の知識レベルを想像すること」。
著者と読者それぞれの帽子をかぶる、と結城氏は表現しています。
理系科目の学者による文章術は、欧州出身の著者により多く発売されていますが…どれも難解で、一般の人には手の出しにくい内容でした。
しかしこの本は、前述の著者の訴えをきちんと実践しています。
具体的には、どのように役に立つのでしょうか。
文章を書く場合、統計学的資料や出典があっても、「自分にしか理解できていないこと」を説明しなければなりません。
そういったときの説明・注釈の適切な置き方や、代名詞・指示語の使い方などを懇切丁寧に解説してくれています。
全体的に語彙が平易で、中学生…早ければ小学校高学年のお子様からでも十分に読めます。
読書感想文やレポート作成まで、学生さんの役に立つプレゼントとしても大変おすすめ。
社会人でも、新しい提案をする際の資料作成、さらにはSF・”セカイ系”小説などの独自構想のある小説作成にもぴったり。
ライターなら誰でも一読しておきたい、電子辞書のお供です。
推敲に「てにをは連想表現辞典」
語彙力に自信のない人におすすめ
電子辞書のほとんどの機種には「類語辞典」が収録されています。
表現を入力するだけで多彩な言語が出てきますが、機械的に同義語を羅列することに留まります。
どの言語においても、文体・シーン・著者の意図することに添った単語を厳選することが必須。
なんとなく難しそうな類語で表現の幅を広げようとしても、文章が迷路のように入り組んでしまうことがあります。
ここで紹介する「てにをは連想表現辞典」は、”枕詞”に着想のある、一文レベルでの表現手段検索が可能。
動詞・形容詞を調べると、実用例(過去の名作に含まれる文)を他種提示。
著者や所属派閥による表現手段の違いを比較し、「一単語から深度の低い文を作る」よい助けになります。
読書の習慣のない人・小説はあまり読まないという書き手にも、自分なりの文体を編み出す手引きとしておすすめしたい一冊。
ウェブ小説作家・論説を多く書くプロに繰り返しレビューされている、電子辞書にはない必携書。
上級者向け「日本語の文体・レトリック辞典」
論理的に文章を分解できる人むけ
レトリックに関する辞典はこれを含めて2冊が代表的ですが、もう一方に比べて優しい内容になっているのが特徴です。
比喩表現・パロディー・擬人法など、過去の名作で行われた多様なレトリックを収録。
その傍らで、読者に不快感を与える悪文・読み手の心理学までをもカバーしています。
こういった「悪い例・読者の心証」に関する書籍は他にもありますが、より実践に近い説明しているのは、これら辞書の類になります。
デメリットとしては、文法に対する理解を一定レベルで要求されることでしょうか。
動詞・形容詞・副詞・接続詞…などといった文法用語の語義を、自分ですらすらと言える人に向いています。
しかし、一度理解してしまえば非常に使いやすい一冊なので、知識に自身がなくても持っていて間違いはないでしょう。
ツイッターやFacebookなど、限られた文字数/素材で人目を惹く表現をしたいかたであれば、まさにぴったりの一冊。
ショート・ショートやWeb連載小説などを書く人にも、電子辞書収録のパブリックドメイン小説の実例を見ながら、実践的に技術を学ぶのにおすすめいたします。
読書の良手本「哲学ノート」
良質な文を書くには、紙・電子両方の辞書の活用に加えて、インプットも欠かせません。
効率よくライティングテーマを練りたい・知識を吸収したいという方に、是非読んでほしい一冊があります。
最後にご紹介いたします。
岩波版がおすすめ
かのウラジミール・レーニンには、政治家と哲学者という2つの顔があったと知られています。
大変な読書家で、近代の読書指南本で多くみられる「本を汚く使う」という発想の、はじめての実践者でもあります。
本項で紹介する「哲学ノート」は、彼が読んだ哲学書とそこへの書き込み・読書ノートを遺稿としてまとめた一冊。
複数の出版社から日本語訳が出ていますが、岩波文庫版が断然おすすめ。
なぜならば、彼が読書中に残した実際の書き込みが、そのまま収録されているからです。
思想ではなく読書のコツを学びたいという人には、うってつけでしょう。
レーニンの実践的な「読み方」
レーニンの読み方は、本に個人的な感想を書き加えることが中心となっています。
分からない部分は「分からない」という実直な感想を添えてあることが印象的。
彼は本への書き込みとは別に、ノートを作成していました。
前述した「分からない」という感想に対し、あとでまとめて辞書で調べ、ノートにまとめるのが彼のやり方だったのです。
この方法で大量の学者の主張・レトリックをインプットし、実際の政治活動におけるスピーチ原稿などに応用することで、彼の政治家としての肩書きを盤石にしたのだとか。
トップレベルの国公立大学では、読書の実践法として教授の思想にかかわらず勧められるそうです。
「哲学ノート」に関する研究や講義は今も盛んにおこなわれ、哲学・経済学を学ぶ学生の間では必携の一冊となっています。
以上のような経緯から、「影響力のある・人心に訴えかけるためのインプットをしたい…」という高い目標をお持ちのかたには、たいへんおすすめできる一冊です。
ちなみに、この本は政治的な理由からパブリックドメイン化される予定はないのだとか。
つまり、電子辞書のライブラリに収録されることはほぼ望めません。
そのため、読書の手本として別途購入をしても、損をすることはないでしょう。
まとめ
メディアでの書評が繰り返し行われている・実際に職業作家として成功しているかたの本棚で紹介される本を厳選して、インプット~アウトプットまでに役立つものを紹介させていただきました。
いずれも、電子辞書なしでも事前知識として読みこなせるものです。
頭の体操に・なんとなく暇を持て余しているときに、パラパラとめくってみるのはいかがでしょうか。