視力のハンディキャップを無くしてくれた電子辞書と祖母の思い出

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生まれつき目が悪く、勉強の時はよく、辞書の時を読むことに苦労していました。

それこそ、虫眼鏡を使って、一つの単語を調べるのに20分ほどかかっていたくらいです。

そのせいなのか、勉強そのものが億劫になりがちで身が入りませんでした。

そんな私の勉強概念を変えてくれた電子辞書に関するエピソードをお話しします。

不自由していた調べ物

ずっと見守ってくれた祖母

高校生になるまで、漢字や言葉の意味、英単語を調べるのにはずっと、分厚い辞書を使っていました。

しかし、私にはそのたびに欠かせない道具がありました。

それが、勉強用に用意した小さな虫眼鏡です。

これを使わないと、辞書の文字はてんで読めませんでした。

探している言葉ひとつを見つけるのにも一苦労。

それが、私の勉強の「当たり前」で、それまでは一度も違和感を抱いたことがありませんでした。

しかし高校生になると、周囲のクラスメートの勉強の早さに驚かされる日々が待っていました。

どうしてみんなはこんなに調べるのがはやいのだろう。

どうして私は、こんなに勉強が遅いのだろう。

そのショックは直接、勉強に対するやる気にも影響して、私はすっかり勉強や自習、宿題に身が入らなくなってしまいました。

そんなある時、急に祖母が私の部屋にやってきて、両手に収まりきるかきらないかくらいの箱を渡してくれました。

その時のことはまだはっきりと覚えていて、私は「これは何?」と祖母に尋ねました。

祖母は「これで勉強が得意な子に戻るかな?」と言って、嬉しそうに微笑んでいました。

はじめての電子辞書

きっかけはテレビショッピング

受け取った箱を開けると、中には見慣れない機械のようなものが入っていました。

機械に疎かった私は、まさかパソコンかなと思いこんだりしましたが、説明書を見て、それが電子辞書だということを知りました。

上品なベージュ色の電子辞書には、衝撃防止用のカバーもついており、電源を入れると、文字の表示の濃さなどの簡単な設定をしただけで、すぐに使えるようになりました。

その電子辞書は、画面がとても大きくて、文字の大きさも好みのものに変更できる機能までついており、目が悪い私にとっては辞書のイメージが覆るものでした。

さらに、ひとつの電子辞書に国語辞典、漢字辞典、英語辞典、ことわざ辞典など、とても豊富な種類の辞書機能が備わっており、暗記テスト機能までついていました。

そして一番の驚きは、当時まだ目新しかったタッチペンがついていたことです。

このタッチペンで、読みを調べたい漢字や意味を調べたい英単語を、キーボードの方に書き込んで検索することができて、とても便利だなと感じました。

電子辞書はきっと、機種や機能を選べば、視力にハンディキャップを抱えて勉強をしている学生におすすめなのだろうと感じました。

一通り機能を確認したあと、リビングにいた祖母に、あの電子辞書はどうしたのかと尋ねました。

すると、祖母は笑顔でテレビを指差して、私が留守にしている間にテレビショッピングを見て、目が悪い私のことを思って買ったのだということを話してくれました。

嬉しさと感謝の気持ちの反面、最新型の電子辞書は、きっとそれなりの価格だったのだろうと思うと、胸が痛みました。

これは後々知ったことだったのですが、祖母は私の知らない間に、本屋では大きな文字の辞書がないかを探し回り、書店の店員さんから電子辞書の話を聞いたそうです。

それからはあちこちの電化製品店を回って、目が悪い人にも使い易い電子辞書がないか、長い間探してくれていたそうです。

それでも、細かい文字や小さな画面の電子辞書しか見当たらなく、困っていたところ、放送していた大きな画面の電子辞書を紹介していたテレビショッピングを偶然見て、すぐさま注文を決めたそうです。

勉強への姿勢が変化

祖母が無理をして買ってくれたであろう電子辞書を、私は使い倒そうというくらいの気持ちで酷使し、同時に大切に扱いました。

高校に行く時は、毎日その電子辞書をかばんに入れ、授業で使わない時は一度もありませんでした。

あまりにしょっちゅう使うもので、一度先生から、授業をちゃんと聞いているのかと言われてしまったことがありましたが、今ではいい思い出です。

使い方にもだいぶ慣れてきた頃には、まわりのクラスメートの勉強速度に追いつけるくらいになっていて、自分でも驚いた覚えがあります。

そうして電子辞書を使った勉強を続けて、高校1年の終わりにさしかかる頃には、私は入学間もない頃とは打って変わって、勉強が大好きになっていました。

国語の成績は特によく伸びて、学年2位や3位になることができる時も増えてきました。

勉強が好きになったこと自体が大きな変化でしたが、私は学校での勉強や自宅での予習以外の時間でも、その電子辞書を使うことが増えました。

なんといっても、楽しいのです。

現代のツールで例えるなら、スマートフォンでウィキペディアを延々と眺め、サーフィンするような感覚でしょうか。

知らない言葉や言語を、あいうえお順にただひたすら調べては、気になった言葉をメモして覚える。

それが楽しみであり、趣味にすらなっていました。

そんな時間が増えると、自然と勉強から派生した物事にも関心が広がるようになりました。

授業では、先生への質問の数も増え、雑学や、いままで関心が薄かった政治経済の話も集中して聞けるようになりました。

電子辞書が、私の中の勉強に対する姿勢を大きく変えたのです。

祖母が一番喜んでいました

そうして有意義な毎日を過ごしているうちに、私は自然と自分の目が悪いというハンディキャップを忘れることができていましたし、勉強ができないという劣等感も払拭することができるようになっていました。

高校生活も気づけば終わりに近づき、次の進路を決める時期に入りました。

高校に入った当初、私は、学生としての生活はこの3年間が最後で、卒業したら就職するしかないんだと思い込んでいました。

それくらい、勉強が嫌いだったのです。

しかし、行われた進路相談の面談で、私は迷うことなく、大学に進学したいと担任の先生に言い切りました。

大学の勉強についていきたい。

大学の知識を得たい。

もっと多くのことを知りたい。

不安よりも先に、そうした意欲が勝るようになっていたのです。

私はいくつかの大学の体験授業に参加し、より一層、その意欲が強まるのを感じました。

そして、大学受験に向けた勉強に取り組み始めます。

そばにはもちろん、祖母から貰った電子辞書が一緒です。

さすがに大学受験の勉強は、毎日が楽しい勉強というわけにはいきませんでしたが、祖母の思いやりに応えたいという思いもあって、苦しい勉強も乗り切ることができました。

迎えた大学受験。

そして合格発表の当日。

私はなんとか、第一志望の大学に受かることができました。

合格発表を確認した私は、真っ先に祖母の元を訪ねました。

第一志望の大学に受かったことを報告すると、祖母はまるで自分のことのように喜んでくれて、一緒に泣いてくれました。

目の悪さを理由に勉強嫌いになった私が、電子辞書をきっかけに勉強に前向きになり、希望していた大学に進学できる。

きっと、一番喜んだのは私ではなく、祖母だったのだろうと、今は思います。

まとめ

電子辞書は、機種を選べば、私のように視覚にハンディキャップを抱えた方でも、読み書きが苦ではなくなる可能背雨を秘めています。

特に最近では技術も進歩し、もっと高性能な電子辞書が開発されているのでしょう。

そしてもしかしたら、いつかはスマートフォンやテレビと同期した使用法も開発されるかもしれません。

理由があって勉強を遠巻きにしてしまう方に、私はぜひ電子辞書をおすすめしたいです。