波乱万丈?ウイスキー樽の生涯
ウイスキーのイメージ、というとまずは何を思い浮かべるでしょうか。
磨き上げられたボトルであったり、佇むチューリップグラス、あるいは大きく割られた氷に浸かる姿かもしれません。
ただ、ウイスキーといえば、あの「樽」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
ここでは、ウイスキー造りに欠かせない熟成樽の一生について少しご紹介します。
よりウイスキーを楽しむための、ちょっとした豆知識となれば幸いです。
生まれはアメリカ
現在使われているウイスキー樽は、北米産のホワイトオークで作られたものが中心です。
ヨーロッパでは大量のスコッチウイスキーが造られているのに不思議な気もしますが、これはそもそも、スコッチは新しくできたばかりの樽を使うことはほとんどなく、一度アメリカンウイスキーなどの熟成を終えた「中古」で寝かせるためです。
そして、バーボンなどのアメリカンウイスキーは逆に新しい樽を使用することが義務付けられています。
中古は無しです。
すると、バーボン樽にはピッタリの行先があることになりますね。
初めての仕事を終えた樽は大西洋を渡り、スコットランドなどの蒸留所に運び込まれることになります。
ヨーロッパへ
ヨーロッパに輸送する際、多くの場合は一度バラバラに解体して運ぶのだそうです。
スコッチなどはバーボンより大型の樽を好みますから、組みなおす時に大きさを変えたりもするといいます。
もちろん、輸送スペースの問題もあるでしょう。
さて、こうして再び組みあがった樽は、アメリカよりもずっと長い期間をヨーロッパで過ごします。
まずはファーストフィルが待っています。
ファーストフィル、セカンドフィル……
ファースト、セカンド、サードフィルとは、輸入されたバーボン樽に原酒を詰める際、それが一度目か二度目か三度目か、という意味です。
先ほども「中古」と言いましたが、中古であることは決して悪いことではありません。
前回詰められていたものの種類による仕上がりの違いや、スコッチには強すぎる木の香りを抑える効果などを考え、最適なものが選ばれます。
バーボンの香りが強く出すぎてしまうと困る場合はセカンド、サードフィルの樽を使う必要があります。
サードフィルの時には、今度はセカンドフィルの時に眠っていたウイスキーの種類が影響することになります。
また、ラフロイグなどの特定の銘柄は、絶対にバーボン樽のファーストフィルしか採用しないそうです。
その他、マッカランはシェリー樽を頑なに使い続けていますし、それぞれのこだわりは重要なもの。
他ならぬ蒸留所のこだわりですから、今度お飲みになるときは樽の由来や履歴を気にしてみるのもおすすめです。
詰めなおす毎に補修
熟成の仕事を終えた樽は、毎回補修を受けます。
ファーストフィルでも、二度目も三度目も同様です。
へたってしまっているところやタール化の様子をみて、樽職人が仕立て直します。
見様によっては、フィルを重ねるごとに精鋭といえる材・樽が揃っていくことになります。
セカンドフィル、サードフィルの樽は「実績」があり、錆や漏れなどに対して強いことが見込めるということです。
削りなおして焼きなおす
さて、サードフィルともなると、もうすでに30年、40年以上も使われてきたことになります。
しかし、お役御免かというとそうではなく、まだまだ現役です。
原酒に移すべき木材由来の成分が薄れてしまっているため、樽の内側を削り、数十年ぶりに内側に焼きを入れて活性化させるのです。
復活した樽はまだまだ20年、30年と使用されていきます。
ここまでのベテランだと、ブレンド用のグレインウイスキーの熟成に使われることが多いようです。
まとめ
おわりにかえて、さらにその後の樽の行方もご紹介しましょう。
もともとが最高級の木材ですから、70年以上もの時間ウイスキーとともにあった後にも立派な仕事があります。
まずはインテリア。
バーやパブで樽のテーブルをご覧になったことがあるかもしれません。
あるいは廃樽を使った内装や家具なども、いかにもな雰囲気が出て素敵なものです。
また、燻製料理のスモーク材として使われることも多いようです。
100年も育った後70年もウイスキーに浸かって……さぞ、おいしいスモークになるでしょう。