いも焼酎のサツマイモ
酒を造るのには原料が必要です、ワインですとブドウ、日本酒ですと米と水、ウイスキーですと大麦麦芽と水です。
いも焼酎ですと芋が原料になります、ジャガイモでもコウジカビの力によってでんぷんを糖化することにより酒を造ることが可能ですが香りはジャガイモに由来します、山芋などの粘りがある芋はムチンなどのタンパク質が多いため酒作りには向きません。
したがっていも焼酎には通常はサツマイモが使用されています。
サツマイモとは
サツマイモというものは肥料が少ないやせ地でも育つために日本各地に広がりたくさんの品種が存在します一般に広く栽培されており、スーパーマーケットに行くと売っている赤い果皮とその大きさが特徴なベニアズマという品種が日本で一番よく見られるサツマイモになります。
10度以下になると低温障害を起こし低温腐れと呼ばれる症状を起こしますが、どういうわけかベニアズマは北海道まで栽培されていることもあり、日本でサツマイモとイメージして思い描かれるのはベニアズマになります。
最近有名になってきた安納芋は古くに日本にやってきた品種がほとんど姿を変えずに生き残っているもので、サツマイモの先祖型に一番近いと言われています。
その特徴は芋の甘味と、小ぶりですが良く取れることです。
その甘さは、茹でた芋を一晩中冷蔵庫に入れておくと、蜜がたれて水飴状の蜜の池ができるほどです。
いも焼酎を造る芋
一方、いも焼酎を造る際に利用されるサツマイモは、完成したいも焼酎の香りや味の違いによりたくさんの品種があり、新品種まで生まれています。
一番有名でいも焼酎界のキングであるサツマイモはコガネセンガンというサツマイモで、見た目は古くにブラジルからやってきたシモン芋という白皮白身の品種に近く、交配親としてもシモン芋が使われています。
シモン芋はミネラル分がとても多く、各種ビタミン含有量や食物繊維の豊富さなども他の食材をはるかにしのぐ多さで健康食品並みの栄養素があります。
かつてこのシモン芋でもいも焼酎が作られていたこともありましたが、現在では全てがコガネセンガンに入れ替わってしまったようでよほど探さないかぎりは見つける事はできません。
コガネセンガンはいも焼酎用として人気でいも焼酎のために生まれて来たようなサツマイモですが、調理用サツマイモとしても評価が高く希にデパートや大型スーパーなどで幻の芋として販売されていることがあります。
いも焼酎の製造法
日本では有名な銘柄をはじめ、最高級いも焼酎や普段吞み用の一般的ないも焼酎でもコガネセンガンが使用されていることが多いです。
それほどコガネセンガンはいも焼酎界のスターでありキングであり、それまでただただサツマイモで出来た芋臭い酒であったいも焼酎を嗜好品の域にまで高めたいも焼酎界の革命者でした。
コガネセンガンがこれほどまでに人気が出たのにはきちんと理由があります。
まずアルコールを造るためには糖を作る必要があります。
これはアルコールを作り出す酵母が、糖を分解してアルコールと二酸化炭素を出すためで、酒作りでブクブクと発酵するイメージがあるのはこの二酸化炭素が原因です。
ただし、サツマイモそのものにはいも焼酎などの蒸留酒を造るだけの糖分を含んでいません。
そこでどうするかというと、でんぷんを分解して糖を作り出すコウジカビを利用してでんぷんを糖化します。
つまり、でんぷん価が高いほど、アルコールを作りやすく、アルコールの穂止まりを期待できる上に透き通るような美しい風味のいも焼酎が出来やすいです。
コガネセンガンはサツマイモ界全体を見てもでんぷん価が非常に高く、酒づくりに向いています。
コガネセンガンとは
コガネセンガンはサツマイモとしてはかなり収穫量が多く、名前の由来の1つに畑1反、面積でいうと10アールあたりに3.75kgつまり千貫のサツマイモが収穫できるという収穫量の多さも栽培が広がった理由の1つかもしれません。
焼酎に使われている芋の買い取り価格は芋の品質で決まり、芋の品質は1個あたりの重さで決まります。
なぜなら1つ1つが大きい芋のほうが、皮やその他タンパク質の値が少なくなり、身の部分に蓄えられたでんぷんの値が大きくなるためで、でんぷんが多いほどアルコールが作れるので品質が良いとされます。
上品の収穫量がそのまま農家の売り上げに直結していますので、農家に人気が出ないことには栽培が広がっていかないということを考えるとコガネセンガンはそういった魅力があったのでしょう。
種類
ポリフェノールやカロテンなどの色素が多いサツマイモ品種は、フェノール系の物質を他よりも多く含んでいるので、芳香性成分のバランスが普通のサツマイモ品とはかなり異なったものになります。
特殊な物ということを表す言葉の1つに色物という言葉がありますが、サツマイモ界でも色が強くあるものは特殊な香りを持ちやすいです。
レアな焼酎とされている赤霧島や、茜霧島などは色物のサツマイモから作られており、必ずしもコガネセンガンだけが高い価値を持つというわけではなく、こういった色物も個性を生かして価値を高めています。
サツマイモの中で色物は例えば紫芋が思い浮かばれると思いますが、紅色やカロテンが豊富なオレンジ芋と呼ばれる物もあります。
代表品種は琉球紅芋や、種子島紫芋です。
品種
いも焼酎界でのキングはコガネセンガンですが、他にも色々な品種がいも焼酎に利用されているので少しご紹介します。
まずコガネセンガンはシモン芋や太白と同じく皮も身も白く、でんぷん含有量が20~30パーセントほどもあります。
火をいれてもとても良い香りがするので、食用としても人気があります。
この香り成分がいも焼酎にした時のバランスを整えているのかもしれません。
1994年に生まれた新品種であるジョイホワイトはコガネセンガンを元に生まれてきた品種ですが、火をいれても甘味が出ないために食用芋としては普及しませんでした。
大きく改良されたのはその貯蔵性で、コガネセンガンは貯蔵不能ですがジョイホワイトは貯蔵が可能になりました。
さらにでんぷん含有量もコガネセンガンを上回ることに成功しました。
紅さつまはその甘味と風味、栽培のしやすさから、最上級の食用サツマイモですが、いも焼酎に利用されることもあり、芋臭の強いいかにもいも焼酎という玄人向きのいも焼酎になります。
皮の色は赤いですが、中身は白いので紅白の縁起物としての人気もあります。
色物
種子島紫は色素が多い濃紺色の紫芋ですが、甘味の強い種子島産のサツマイモの中でもトップクラスの甘さをもち、種子島ゴールドと呼ばれる種子島の紫芋は安納芋と肩を並べるほどの甘さを持ちます。
さらにこの色鮮やかな色素はポリフェノールなのでストレス社会の日本人にはかなりおすすめの芋です。
原種の違いか暖地性が強い芋で、暖かい地域のほうが甘味を強く持つようになります。
いも焼酎にすると他のサツマイモよりもエレガントな甘い香りを放ついも焼酎になります。
琉球紅芋は1605年に琉球王国にやってきた芋で、南方性の害虫などを持ち込まないために沖縄県外への移送が禁止されており、空港内に持ち込み禁止植物の一覧が書いてあります。
紅芋タルトや紅芋まんじゅうが有名ですが、宮古島の紅芋餅が一番のおすすめです。
いも焼酎にもなり、紅一枠などの銘柄があります。
沖縄らしく濃厚な風味を持っています。
ベニハヤトもしくは隼人芋というサツマイモはニンジン芋と呼ばれるほどカロテン含有量が多く、ニンジンのようなオレンジ色をしていることからニンジン芋とも呼ばれます。
近年では安納芋などとセットになって売られていることもあり、ねっとりした食感が売りです。
いも焼酎になると甘くフルーティーな香りがあります。
サツマイモの品種改良
サツマイモはヒルガオ科サツマイモ属の植物で、花が咲くには条件があります。
株が充実していることと、日の当たる時間が短くなることが条件で、近い種類であるアサガオと同じく短日開花性を持ちます。
本州ですとこの条件が整う頃には冬になってしまうので花が咲くことはほとんどありません。
希に芋が傷付いたり害虫により多くの葉を失うなどすると開花することがあるくらいです。
ですが本州でも開花させる方法が1つあり、同じヒルガオ科サツマイモ属のキダチアサガオにサツマイモのツルを接ぎ木してしまうと、花が咲きやすいキダチアサガオが開花ホルモンをサツマイモのツルに送るのでサツマイモも開花します。
この花からとったタネを蒔き選抜していきます。
まとめ
ヒルガオ科サツマイモ属の植物は基本的に亜熱帯性の植物なので寒さに弱く本州ですと冬に枯れてしまうので、冬の間大切に芋を保護しています。
品種改良ですらも特殊な方法をとらなければならないため様々な工夫を凝らしています。
品種によっても出来上がってくる焼酎の風味がかわるので、いも焼酎作りは人々の努力とたゆまぬ工夫のもとで行われています。