スペインの粕取りブランデー! オルホってこんなお酒なんです。
ワインの生産地では必ずといっていいほど見られる粕取りブランデー。
フランスならマール、イタリアならグラッパが有名ですよね。
こちらオルホはスペイン産の粕取りブランデーです。
日本ではあまり馴染みのない名前ですが、スペイン国民にとっては食後に気軽にいただける、馴染み深い飲み物だとか。
どんな飲み物なのか、見てみたいと思います!
目次
粕取りブランデーってどういうこと?
通常、ワイン造りにはブドウが原材料として使われるわけですが、当然搾りかすというものが残ります。
粕取りブランデーとは、このような搾りかすを集めて蒸留し、熟成させたものを指すのです。
粕から造られてるなんて、なんだかマズそう…。
そう思われた方、まったく違うんです!
普通のブランデーはワインを蒸留して造られますが、この粕取りブランデーは果肉や果皮を直に使用している分、香りや味わいがよりフレッシュで強いのです。
つまり飲みやすく、誰でも気軽に楽しめるブランデーなんですね。
有名ワイナリーのものはお値段もそこそこ高く、搾りカスから造られたといえどもあなどれません。
例えば、ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティの粕取りブランデー、マール・ド・ブルゴーニュなどはボトル一本およそ8万円もするものがあります。
特にロマネ・コンティのものは希少で価値が高いため、愛好家たちにとっては垂涎の的と言えるでしょう。
スペインのオルホってどんなお酒?
もともとはスペイン北部で飲まれていましたが、独特の味と香りが大人気となり、現在ではスペイン全土で楽しまれているお酒です。
特に好まれているのはコーヒーやハーブを漬け込んだ、オリジナルレシピの甘いもの。
スペイン北部ではコース料理の最後には必ずといっていいほど供される飲み物です。
ちなみにスペイン語で、「搾りカスの強いお酒」を“aguardiente de orujo”と言います。
つまりオルホとは「搾りかす」、という意味なんですね。
オルホはいつから飲まれているの?
オルホの産地として有名なのは、スペイン北西部のガリシア地方です。
このガリシア、という名まえは古代ローマ時代の属州「ガラエキア」からきているとされています。
よって、ローマ人のスペイン到来とオルホの由来を結びつける文書や伝記が数多く残っており、オルホの始まりはこのあたりからではないかと考えられていました。
しかし、ローマ人以前に存在したケルト人が宗教的儀式を行っていた「Pena Corneira」と呼ばれる丘にはオルホの前身となる酒の手法が記された石が見つかっており、その起源ははっきりとはしない状況と言えます。
一方、ブランデー造りに欠かせない「蒸留」という技術は古代ギリシャとアレクサンドリアに起源をもつと言われています。
酒の蒸留技術は2世紀から3世紀の地中海文化において花形ともいえるものとなりました。
この後、アラブ文化の発展に伴い、蒸留技術は一層発達していきました。
アルコール、という言葉の由来もアラビア語ですね。
その後、スペインにアルコール技術を持ち込んだのはムーア人です。
おかげでスペイン産のスピリッツやオルホが大流行しました。
特に、搾りかすには病気や魂のうずきを抑える薬効があると信じられており、魔法の薬としても求められていたようです。
このように民間に広がっていったオルホですが、その名まえが歴史的に出てくるのはかなり後のことです。
1663年に、ドイツ人のイエズス会宣教師が、強いお酒の一つとしてオルホを紹介しています。
国民に魔法の薬として愛されていたにも関わらず、歴史的文献への登場が遅いというのも不思議ですよね。
オルホが廃止された?
オルホが製造され始めるとすぐに、政府は重い税金をかけるようになりました。
さらに19世紀にはオルホを含む蒸留酒の製造が禁止されてしまいます。
自己流で製造を行って、深刻な健康被害を受けた人や死者が多発したためです。
なんとか製造の許可がおりたのは20世紀に入ってから。
それまでの間、オルホを造っていたのは限られた専門家たちでした。
彼らは可動式蒸留器を持ち、街から街へと移動して、依頼を受けた先でオルホを製造していたといいます。
禁止が解かれた現在は、オルホの製造は完全に法律に基づいて製造されたものでなければならなくなりました。
どうやって造っているの?
オルホは粕取りブランデーですから、ワイン製造後の最後に残った残留物から造られます。
具体的には、ブドウの皮、種、茎などですね。
これを大樽に入れて、発酵させます。
オルホの蒸留酒製造機は銅のかまを用いられるのが一般的です。
これはアラブ人がイベリア半島にもちこんだもの。
Alambiquesやalquitarasと呼ばれる銅釜は暖炉の上に置かれ、火種によって熱せられます。
このプロセスですと、蒸留にはおよそ6時間かかると言われています。
現在では自己流の蒸留方法を使った製造は禁止されています。
しかし田舎などに行くと、こっそりと造っていることもあるようです。
古来からの方法で造られたオルホには有害なアルコールや油分が残っていることもあるため、注意が必要です。
オルホを飲むならどこの生産地がいいの?
スペイン全土で愛されているオルホですが、とりわけ有名な産地は北西部ガリシア地方です。
ガリシアで造られたオルホには「オルホ・デ・ガリシア」という名まえが付き、厳密な原産地呼称法で守られています。
その他では最も古い文献に生産の記録が残るカンタブリア地方、レオン、アンダルシア地方の一部、サモラ北部地方などが有名です。
ガリシア地方のオルホ
スペイン国内でオルホの文化が根付き、最も発展したのがガリシア地方です。
ここでのオルホ製造の始まりは17世紀ごろと言われています。
ガリシア地方にオルホが深く根付いた理由として、2つの事象が上げられます。
まずこの時代、各地に存在した修道院が依頼して、当時の錬金術師が蒸留の方法を伝えて歩いたことが一つ。
もう一つはキリスト教の3大巡礼であるサンティアゴ巡礼のおかげです。
この巡礼によって、新しい技術が流入してきたと言われています。
オルホはこの地方の人々の生活にとって欠くことのできないものです。
一日を元気にすごすための「朝の1杯のオルホ」の習慣を持つ村も珍しくありません。
ワインの粕に薬効があると信じられていたように、オルホは薬代わりとしても使用されてきました。
頭痛、虫歯の痛みの他、捻挫などにも効くと考えらえていたようです。
その効用は人間のみではありません。
農家では、乳のでなくなった牛にオルホをつけてマッサージすると、乳がでるといわれていたとか。
本当にいたるところに使われていたのですね。
現在のガリシア産オルホは…
中世時代以降発達したオルホですが、ガリシアでは個人の家庭でもさかんに造られるようになりました。
これによってますます愛され、生活に密着した飲み物となったオルホですが、弊害もたくさんありました。
自己流の蒸留による死者や病人が後を絶たなかったのです。
19世紀には全面禁止され、20世紀には一部許可されるようになったのは前述の通りですが、可動式蒸留器を持って専門家が歩き回ったのはここガリシアです。
この可動式蒸留器を持ち込み専門家が蒸留を行うのは、ガリシアでは秋の風物詩ともいえるものとなりました。
こうしてガリシアの蒸留技術は発展し、専門職人による質の高いオルホが生産されるようになりました。
しかし、時代は移り、EUが発足します。
それに合わせてスペインの法律も変化し、可動式の蒸留器は全面禁止となります。
蒸留酒の製造には固定設備のみが許可されたのです。
オルホを造るためには蒸留器を持つメーカーに搾りかすを持参して蒸留を依頼するか、蒸留所が造った蒸留酒に自社ラベルを張って販売するしかなくなりました。
おかげでガリシア地方のオルホからは個性が失われてしまったと言えます。
「オルホ・デ・ガリシア」とは?
ガリシア産のオルホは原産地呼称法で保護されています。
フランスのコニャックやアルマニャックなどと同じですね。
EU統合の後、ガリシアの伝統的な製法で造られるオルホが禁止となり、オルホ自体が消失してしまうことを恐れた政府が保護を目的に取り決めました。
オルホ・デ・ガリシアの条件とは!
オルホ・デ・ガリシアと名乗るには次の要件を満たさなければなりません。
1ガリシア州内のブドウを原材料とすること2ガリシア州内のワイナリーで出されたブドウの搾りかすのみを使用すること(これにはサブ・ゾーンがあり、リベイラ、バルデオッラス、リアス・バイシャス、リベイラサクラ、モンテレイが指定されています。)3製造工程、容器、ラベルも規定にあわせたものを使用すること現在認証されている蒸留所は31。
その他原材料となる搾りかすを生産する機関として認められているのが131社。
これらの年間総生産量は30万リットルほどになります。
オルホ・デ・ガリシアの種類はコレ!
1.Aguardiente de Orujo
2.Aguardiente de Orujo Envejecido
3.Aguardiente de Hierbas
4.Licor de Hierbas
5.Licor Café
こちら1と2はノーマルタイプのオルホです。
2の方が熟成期間は長いです。
3と4はハーブを一緒に漬け込んだものです。
5はコーヒー豆を漬け込んだもの。
こうしてみると色々な種類があって、飲み比べも楽しそうですね。
オルホ・デ・ガリシアの酒造と言えば!
EU統合後、伝統が失われかけてしまったガリシアのオルホ。
多くの酒造は時代と共に失われてしまいました。
そんな中、現在でも伝統を守り続け、伝統酒を造り続けている酒造があります。
それが「Zarate」(サラテ)です。
全ての過程を自社で行うというこの会社のオルホは、一体どんなものなのでしょうか?
いくつか見てみたいと思います。
サラテってどんな酒造なの?
サラテは、オルホ・デ・ガリシアで認められたサブ・ゾーンの一つ、リアス・バイシャスのサルネス谷にあります。
蒸留所は16世紀に建てられていたものを、18世紀に再建しました。
家族経営を行い始めたのは1707年から。
以来7世代にわたって、伝統と技術を受け継ぎ、守っています。
自社のブドウ畑には樹齢100年以上の株や、ピエ・フランコ(接ぎ木をしていない株)など、貴重なものが見られます。
また、エルネスト・サラテ氏は1950年代にアルバリーニョワインの普及に努めた人物として有名で、カンバドスのアルバリニーニョ祭りの創設者でもあります。
伝統的製法は現在も健在で、11月になると昔ながらの職人が酒造を訪れ、オルホを作り上げます。
特徴としては、蒸留の際、最初と最後の部分は捨ててしまうこと。
これは「頭としっぽは使用しない」という昔ながらのガリシアの製法です。
蒸留の最初「頭」は風味が強すぎ、最後の「しっぽ」は風味が落ちてしまう、と考えられているからです。
安定した中心部「ハート」のみを使用することで、オルホ・デ・ガリシアの品質を保つことができるのですね。
サラテOrujo de Galicia
アルコール度数45のオルホです。
リアルバイシャス地区で栽培された、高品質ブドウアルバリニーニョの搾りかすを使用しています。
カラーは無色透明。
ブドウが鮮烈に香ります。
口に含むとまろやかで柔らかく、雑味のないすっきりとした味わいが楽しめます。
ブドウの上品な香りが長く残ります。
食後酒としておすすめ。
サラテAguardiente de Hierbas de Galicia
こちらはオルホ作成の際に、ハーブやスパイスを共に蒸留したものです。
サラテの「Aguardiente de Hierbas de Galicia」には、様々なハーブやスパイスが含まれています。
カミツレ、オレンジの花、ココアの殻、レモングラス、クローブ、黒茶、コリアンダー、ミント、シナモン。
こんなにたくさん入ってるの、とびっくりしますが、これだけではありません。
ノーマルなサラテの「Orujo de Galicia」はすっきりとした無色透明でしたが、こちらはほんのりと優しい黄色。
これはサフラン由来のものです。
凝縮器の中にサフランを入れ、液を凝縮し冷却する際に自然と着色されるのです。
これによってサフランの自然な色と風味がオルホに加えられるというわけです。
合成着色料など一切使用していない自然のおいしさです。
アルコール度数は35度ほどです。
まとめ
蒸留の専門家が訪ねてきて蒸留してくれる、なんて不思議な感じがしますね。
こんな特徴を持ったオルホは甘みが強く飲みやすく、スペイン全土で親しまれているお酒です。
日本では酒専門店に行けば取り扱いがあるようです。
オルホを試してみるならまずは「オルホ・デ・ガリシア」をおすすめします!
スパニッシュブランデーの奥深さを是非味わっていただきたいと思います。