一杯のウイスキーが育まれた大地と美味しさの秘密に迫る
あなたとウイスキーの初めての出会いはいつですか?
就職先の先輩がバーに連れて行ってくれて出会った方、最近のハイボール人気がきっかけで出会った方、もしくは小さい頃に実家のサイドボードに並んでいるウイスキーの小瓶を見て興味を持った方もいるかもしれないですね。
ウイスキーの楽しみ方はいろいろありますが、ときにはグラスを傾けながらウイスキーの故郷に思いを巡らせてみませんか?
ウイスキーと気候
ウイスキーは世界中で愛されていますが、実はどこの国でも作れるわけではありません。
蒸留所は主にスコットランド、アイルランド、日本、アメリカ、カナダにあります。
最近ではオーストラリアの蒸留所も注目されはじめているようですが、蒸留所が世界各国にどんどん増えているわけではありません。
ウイスキーを蒸留するには寒冷な気候ときれいな水源が必要なのです。
主な蒸留所の気候を比べてみたところ、世界で一番蒸留所が多いスコットランドには四季があり、冬の気温は2〜6℃と日本でいうと関東北部くらいです。
夏は14〜19℃と北海道よりも涼しいくらいでしょうか。
アメリカでいちばん蒸留場が多いケンタッキー州は日本に比べて温暖になりますが、やはり四季があります。
そして各蒸留場の近くにはきれいな湧き水や小川などの水源があるのです。
身近な山梨県にある白州蒸留所の敷地内では、知る人ぞ知る有名なミネラルウォーターのボトリングもされています。
ウイスキーのできるまで
大麦から作られるモルトウイスキーを例にしてみると、ウイスキーは大きく分けて5つの過程を経てボトルに詰められます。
製麦
原料の大麦はそのままでは酵母が発酵させられないため発芽させて発酵できる状態にします
糖化
製麦でできた麦芽を細かくして温水を加え発酵しやすいお粥のような状態にします。
発酵
糖化してできた麦汁に酵母を加え発酵させるここではじめてアルコールが発生します
蒸留
蒸留器を使って発酵によりできた発酵液(もろみ)を蒸留していきます。
蒸留することでアルコール度数は高まります。
貯蔵
蒸留により出来上がった原酒を樽に詰めて寝かせ熟成させます。
寝かせる年月で味も色も変化していきます。
熟成されたウイスキーは他の種類のウイスキーと混ぜたブレンデット、混ぜないシングルモルトがありシングルモルトの中でも1つの樽だけから瓶詰めされたものをシングルカスクといいます。
ピートがもたらすスコッチの個性
イギリスのスコットランドで作られるウイスキーをスコッチウイスキーといいます。
スコッチウイスキーは香り高く味わい深いところが魅力ですね。
スコットランドにはたくさんの蒸留場があり蒸留所ごとの個性も豊かです。
ブレンドをせずにシングルモルトとして楽しまれることが多いのも頷けます。
スコッチの個性を生み出す要素は何点かありますが、遠く離れたスコットランドの地に想いを巡らせることができる要素のひとつに味に生かされるピートの存在があります。
ピートはかんたんに言うと石炭になる前の状態の泥炭のことです。
ピートは枯れた植物を微生物が分解することによって作られたもので可燃性です。
スコッチウイスキーを作るときに麦芽の成長をちょうどいいところで止めるために乾燥をさせる過程があるのですが、その際に使う燃料の一部が泥炭(ピート)なのです。
ピートは天然のものなので、燃やしたときに採掘された土地の香りがよみがえります。
昔ハーブが自生していた土地のピートは香り高く、昔海の底だった土地のピートは海藻の香りがします。
このためスコットランドのアイラ島などで蒸留されたスコッチには海藻の香りがするものがあるのです。
また、ピートを燃やすことによってスモーキーな香りを与えることができます。
ウイスキーの香りを表現するときにはいい香りをピート香と表現するようですね。
シングルモルト余市に感じる石狩の地
日本ではピートを工業用に使っていますが、ニッカウヰスキーだけは今でも北海道の石狩平野でピートの採掘をして使用しています。
ニッカウヰスキーのシングルモルト余市に石狩平野のピートの香り高さとスモーキーさがしっかりと生かされているといえます。
蒸留所の立地が香りを与える
ピートがスコッチに与える香りとスモーキーさに加え、もう1つその土地ならではの香りを与える要素が蒸留所の立地です。
蒸留したウイスキーは樽に詰められ熟成されるわけですが、長い年月をかけて熟成をしている間に樽が土地の香りも含んでいくのです。
そのため常に潮風の当たるアイラ島などの蒸留場で熟成されたスコッチには潮風の香りも感じられます。
天候によっては潮をかぶることもあるアイラ島やその周辺の島で蒸留され熟成されたスコッチがスモーキーで個性が強い理由はそこにあります。
科学が進んだ世の中ですが、ウイスキーを樽に詰めて熟成させることによって美味しくなるメカニズムは未だに解明されていない部分も多く、神秘に満ちています。
蒸留所を訪れてみる
ウイスキーの故郷に興味が湧いて行ってみたくなったら、蒸留所を訪れてみるのもおすすめです。
スコットランドにも見学できる蒸留所がありますが、思い立ってすぐに行けるものではません。
また、スコットランドの蒸留所は見学の際の説明も英語なので英語が苦手な方は二の足を踏んでしまうかもしれませんね。
日本各地にも見学ができる蒸留場所が点在しています。
小旅行感覚でも楽しいですし、住まいから近い場所にあれば日帰りでも行くこともできます。
ガイドの方が蒸留所内を案内してくれるツアー式なので、ウイスキーができるまでの過程がよくわかります。
自然豊かな環境に存在する蒸留所の素晴らしい風景は、きっと心に残るでしょう。
見学できる日本の蒸留所
- 余市蒸留所(北海道)
- 宮城峡蒸留所(宮城県)
- サントリー白州蒸留所(山梨県)
- 信州マルス蒸留所(長野県)
- 富士御殿場蒸留場所(静岡県)
- サントリー山崎蒸留所(大阪府)
- マルス津貫蒸留所(鹿児島県)
蒸留場でしか買えないウイスキー
各蒸留所では、ウイスキーを購入することもできます。
全くブレンドしていないシングルカスクのものや、特別な蒸留方法で作られたものなど市販されていない希少なウイスキーを手に入れることもできます。
ウイスキーのテイスティンググラス
ウイスキーを飲むときにはどんなグラスを使っていますか?
きれいな模様のロックグラスもいいですが、香りを最大限に楽しめるのがウイスキー用のテイスティンググラスです。
遠く離れた地で長い年月を経てボトルに閉じ込められ手元に届いたウイスキーは、グラスに注がれ空気に触れることで本来の香りが花開きます。
テイスティンググラスは実際に蒸留所で使われていますが、ウイスキー愛好家の間でも人気がありいろいろなデザインのものが販売されています。
また、ウイスキーと一緒にプレゼントされるかたもいらっしゃいます。
価格は安いものは3百円くらいから、高いものだと7千円くらいあります。
デザインやガラスの質にこだわらなければ安いものでも十分に役目を果たし、ウイスキーの香りを存分に楽しむことができます。
まとめ
今そこにあるウイスキーはどのような場所で生まれ年月を経て、あなたの手元に届いたのでしょうか。
ピートの時代から考えてみると、わたしたちが生まれるずっと前のその地から手元に届いたものだったのです。
そしてその中には蒸留所が閉鎖になりもう二度と作ることができないウイスキーというのも存在します。
何光年もかけてわたしたちに届く星の光のように、そのウイスキーはグラスの中でキラキラ輝いているのです。