ウイスキーはカスクが命!カスクについてどのくらい知っていますか?
ウイスキーを造る上で、重要な工程である「樽熟成」。
樽、つまりカスクで熟成させることはウイスキーの味を決定づけるのに最も影響力のあるプロセスであると言えます。
どのカスクがどのようなタイプのウイスキーに使用されているのか…。
ウイスキーを知る上ではとても興味深いカスクとウイスキーの関係を見てみたいと思います。
ウイスキーの始まりは…
現在のウイスキーの製造工程が確立されたのは1700年代初めからと言われています。
ウイスキー自体は12、または13世紀にはアイルランドからスコットランドに伝わり、修道院を中心に製造が行われていたことが分かっています。
民間にウイスキーの製造が広まり、蒸留所が立てられたのは16世紀以降です。
宗教改革がおこり、各地の修道院が解体・解散すると、ウイスキー製造の技術は農民や一般人にも広まっていきました。
ウイスキーは余剰生産された大麦の換金及び保存のために各地でさかんに造られるようになったのです。
しかし、この当時のウイスキーは現在のものとは少々異なります。
当時のウイスキーは現在のように金やブラウンのカラーはついていませんでした。
これはカスクで熟成させるという工程がなかったからです。
当時のウイスキーは無色透明。
人々は蒸留仕立てのウイスキーを飲んでいました。
現在のウイスキー製法が確立されたのは密造酒時代!
1707年にはスコットランドとイングランドが合併し、グレートブリテン王国となりました。
スコットランドでは1644年にウイスキーに対する課税が行われていましたが、グレートブリテン王国となってからはその課税額は大幅に増加され、一部では初期の15倍もの課税をかけられたとか。
そのため、生産者の多くは密造酒を作るようになりました。
場所は主にハイランド地方の山奥。
1823年に酒税が引き下げられるまでウイスキーの密造は続いたと言います。
この課税引き下げは、一説によると当時の国王ジョージ4世が密造酒を大変好んだためだそうです。
国家の主たる国王が密造酒を愛飲するなどあってはならないということで、密造酒増加のきっかけとなった酒税引き下げがおこなわれたとか。
以後、スコットランドでは認可の蒸留所が爆発的に増え、一大産業へと発展していきました。
この密造酒時代に、現在のウイスキー製法が確立されたとされています。
まず、他に選択肢がないという理由で、大麦の乾燥には泥炭(ピート)が使用されるようになりました。
これがウイスキーに独特の風味をもたらすようになります。
単式蒸留器で2回蒸留するようになったのもこの頃です。
さらに、樽熟成という工程が含まれるようになりました。
それまでは誰もが出来立てのウイスキーを楽しんでいたのですが、密造酒時代ではそうはいきません。
密造である以上、市場に出す機会を見計らう必要がありました。
そのため、蒸留したウイスキーは時期が来るまで樽に入れて保存されました。
その結果、樽の中で長期熟成させたウイスキーは風味豊かで琥珀色の、まろやかな香味を持つ液体へと変化することが分かったのです。
このような工程が加わったことにより、ウイスキーの品質は各段に向上しました。
ウイスキーを自由に作れなかった時代の工夫が現在のウイスキーの基となっているのですね。
ウイスキーはカスクで決まる!
ウイスキーの色や風味は樽から染み出たもののおかげです。
樽熟成の過程で、無職透明だったウイスキーはタンニンやポリフェノールを吸収して琥珀色へと変化します。
ですから、どんな樽を使用するかによってウイスキーの味は全く異なったものになるというわけですね。
例えば、アメリカン・ウイスキーの代表であるバーボン。
こちらは厳密な定義があって、「炭化被膜処理されたアメリカン・オークの新樽」しか使用してはいけないことになっています。
このような樽を使うことによって、バーボン特有のバニラやカラメルを感じさせる強い香り、深い琥珀色が叶うのです。
このように、カスクはそのウイスキーそのものの質を定義付けるほど強い影響力を持っているのです。
カスクに使用される木の種類も大切なんです!
カスクに使用される原木としては、大きく2つのタイプがあります。
アメリカン・オークとヨーロピアン・オークです。
アメリカン・オークは米国と東部カナダの一部地域で生育しています。
オークツリーは成長がかなり速く、ヨーロピアンのものに比べると若干お安めです。
非常に高密度で、(770kg/m3)モノガロイルグロコースを多く含んでいます。
これは後で典型的なバーボンバニラの味へと変化します。
一方ヨーロピアン・オークはロシアからトルコまで、ヨーロッパの様々な地域で生育しています。
アメリカン・オークよりは成長がやや遅めのため、価格も上がります。
密度もアメリカン・オークよりは低め。
(720kg/m3)疑似タンニンと呼ばれる没食子酸が含まれており、この酸と水を組み合わせると少々苦い風味になるのが特徴です。
ヨーロピアン・オークはウイスキーにスパイシーな味わいをプラスしてくれます。
また、日本独自のものとしてはサントリーが使用しているミズナラがありますね。
これはジャパニーズ・オークとも呼ばれ、樽成分がにじみだすまでには時間がかかるので、長期熟成が前提となってしまいます。
しかし味わいは風味豊かでさわやか。
ジャパニーズウイスキーを特徴づけてくれる素材です。
カスクによる風味とカラーの違いとは
ウイスキーの熟成に使用される樽によって、ウイスキーの風味や味わいが特徴づけられるというのは前述の通りです。
それでは、カスクによる味わいの違いとはどんなものなのでしょうか。
一般的に認められている違いを見てみたいと思います。
バーボン樽
バーボンを作った後の樽は、しばしば新しいウイスキーのために使用されます。
スコットランドで樽材が不足していた折に、アメリカから輸入したのが始まりとされます。
バーボン樽で熟成させると、そのウイスキーは甘くクリーミーでバニラやキャラメル香を持つようになります。
カラーはゴールデン。
シェリー樽
シェリー酒を製造した後の樽ですね。
バーボン樽が多く使用されるようになる前は、このシェリー樽が主に熟成に使用されていました。
その中でもさらにタイプがあります。
オルロソシェリーのものは赤やアンバーの色合いで、暗く、深く熟した果物の風味。
ペドロ・ザメネスというシェリーのものはアンバーカラーになり、非常に甘く、レーズンのような風味。
フィノは明るいカラーとなり、軽い口当たりで甘いフルーツの味わい。
マンザニラは明るいカラーにドライで塩気のある味わいになります。
ワイン樽
ワインを製造した後の樽ですが、赤や白で風味は変わります。
ボルドーワインの樽はカラーが赤くなり、強く甘い果実感のある風味。
シャルドネワインの樽は明るいカラーとなって、トロピカルフルーツのような甘酸っぱさを持つようになります。
ポート樽
ポルトガルで造られるポートワインを製造した後の樽を使用すると、全体的にカラーは赤く、味わいはフルーティーでスパイシーになります。
元のワインの味わいがスイートならウイスキーも甘めに、ドライなポートワインならドライな風味になりますね。
全体的に甘めのウイスキーが飲みたいと感じたら、ポート樽を使用しているウイスキーがおすすめです。
まとめ
ウイスキーは複雑な技術や熟練の技が合わさって出来ています。
特に樽の選択はそのウイスキーを特徴づけるポイントとなりますね。
バーボン樽やワイン樽など様々ですが、樽のサイズも味を決めるうえで大きな役割を果たしています。
一番大きなアメリカンスタンダードバレルは200リットルであるのに対し、ブラッドタブと呼ばれる最小サイズのものは50リットルしかありません。
樽のサイズによって熟成の速さが異なるので、どんなウイスキーを造りたいかによってサイズまで考える必要があるのです。
たかがカスク、されどカスクですね。
ウイスキーを飲む時は使用されているカスクについて考えながら飲んでみてはいかがでしょうか。