スコッチウイスキー職人たちの仕事
スコットランドはウイスキーの発祥、発展の国として有名ですが、スコットランドのウイスキーのことをどこの国でも特別視してスコッチウイスキーという言葉が生まれました。
そこにはたくさんの職人がいて、自然や環境と戦いながらウイスキーを製造しています。
職人たちの仕事にどのようなものがあるか、どのような職人たちがいるか、今回はそういった職人たちに焦点を当ててみました。
スコッチの定義
ウイスキーにはジャパニーズウイスキー、カナディアンウイスキー、アイリッシュウイスキー、アメリカンウイスキーなどがありますがどれも地名が由来になっています。
それと同じようにそもそもスコッチとはスコットランドでのみ造られる酒で、その主原料は大麦麦芽、渓流や泉、井戸などから汲む清水、それにピート、以上がスコッチらしさの元になります。
ブレンドされたスコッチさはほとんどの場合、モルト・ウイスキーとグレーン・ウイスキーとが混合されたものです。
蒸留器には2種類あり、1つは洋ナシ型で白鳥のような首をしたポットスチルと呼ばれるもので、これはモルトウイスキーを造るのに使われています。
もう一つはパテント・スチルと呼ばれる連続式蒸溜器で、高さ40~50フィートもあろうかという巨大な塔でその中は多くの仕切りによって細かく分けられています。
こちらはグレーンウイスキー作りに用いられます。
モルティング
イギリスでは黒く甘いドロップが販売されています。
麦芽糖とビタミンBをたっぷり含んだドロップで、これはモルトを原料にしていますが、モルトとはすなわち発芽させた大麦のことで、これを原料にしたものがモルトウイスキーになります。
まず大麦をタンクで水に浸し40~50パーセントの水分を含むまで漬けておきます。
つぎに、それを発芽床に広げて発芽を促します。
そして待つこと1週間。
この間に大麦の中にはでんぷん分解酵素、つまりアミラーゼやタンパク質分解酵素であるプロテアーゼが生まれます。
発芽によってこれらの酵素がでんぷんやタンパク質を消費する前に発芽を止めると、大麦の中にはアミラーゼなどの酵素と消費されなかったでんぷんが残ります。
発芽を止めるのに使われているのが麦芽乾燥所であるキルンです。
そしてこの際、燃料として使われるのがピートで、この時に出たピートの煙によって大麦麦芽にウイスキー特有のスモーキーフレーバーをたっぷり含ませます。
以上がモルトを造るモルティングの過程です。
ピート
こうして出来たモルトを荒く挽いて糖化槽で水分を加えると、再び酵素が動きはじめてでんぷんが麦芽糖に変わっていきます。
アルコールは、酵母の働きによって麦芽糖から作られています。
酵母が持っている酵素が、麦芽糖をブドウ糖に変え、そのブドウ糖をさらに別の酵素が、エチルアルコールと二酸化炭素に分解します。
ピートとはヒースを主に自生する草花や灌木が長い時間微生物に分解されずにいたために炭化したもので、スコットランドの荒れ地や丘陵から採掘したものを乾燥させると、大きな茶色い固まりになります。
ピートはスコットランドにしかないわけではなくアイルランドや日本でも手に入れる事ができます。
ジャパニーズウイスキーで有名なニッカウヰスキーの余市蒸溜所でも、蒸溜所がある北海道の余市の川から水を汲み、ピートを採掘してウイスキーを製造しています、
ブレンダー
優れたウイスキーを生み出すには、ブレンドを管理するブレンダーが必要です。
マスターブレンダーになる条件は良い鼻だとよく言いますが、ブレンダーはウイスキーをすすりもしなければ口に含みもしません。
ただ背が高く、口の細いテイスティンググラスに入れたウイスキーの匂いを嗅ぐだけなのです。
もちろん樽の中身を研究所で科学的に分析したりもしますが、一番重要なのはやはりこのテイスティングだといいます。
醸造職人の仕事
モルトから生まれた糖化液であるウォートを抽出し、この甘く半透明の液体をワッシュバックと呼ばれる巨大な発酵タンクへと移し、酵母を加えると発酵が始まります。
大麦の根など、粉砕機にかけられる前に取り除かれる不要部位や、糖化液を抽出した後の糖化タンク内の残留物はすべて牛や馬などの家畜の飼料になります。
実はこの飼料生産もウイスキー業界にとっては重要な副産物です。
発酵は通常は36~40時間、場合によっては一月、二月ほど続き、酵母が糖を分解するとアルコールと二酸化炭素が生まれますが、この二酸化炭素のブクブクとした音がおさまれば発酵の完了です。
二つの蒸留器
蒸留母液は銅製のポットスチルで2回蒸留されます。
二つの蒸留釜はいずれも丸い下膨れの形で、首の部分がスレンダーになった姿は白鳥を思わせます。
その形といい丹念に磨きあげられた銅の美しさといい、ちょっとした芸術品です。
形も大きさも非常に似てはいますが、違いはよく見ればわかります。
この二つの蒸溜器はそれぞれワッシュスチルと呼ばれる初留釜、スピリットスチルと呼ばれる再留釜で、二つ揃ってはじめて役に立ちます。
蒸溜職人の仕事
発酵には36~40時間を要しますが、この段階で生成される蒸溜母液のアルコール度数は5~8パーセント前後、ビールの1種みたいなものです。
ここまでを醸造職人の仕事とすると、蒸溜母液を初留釜へと移したところからが蒸溜職人の出番です。
初留釜で1回目の蒸溜が行われ、アルコール度数が約3倍のロウワインと呼ばれる初留液になり、冷却塔を通して再留釜へ行き二回目の蒸溜が行われ、留出液はスピリットセーフと呼ばれる検定器を通して、それぞれ初留、中留、後留に分けられます。
この際、初留液にはまだ不純物が混じっているため、次に出てくる初留液と共に再度蒸溜されます。
初留液は水を加えると濁ることから、蒸溜職人はその変化を見逃すまいと全神経を集中しています。
再留釜から流れ出る蒸溜液が冷却塔の中で冷やされ、その細い首の部分に透き通った液体が溜まり始めたらこの中留液だけがウイスキーの原酒になります。
スピリットセーフというのは、頑丈な真鍮製で、銅の部分がガラスになっています。
ポットスチルの場合と同様に、こちらの真鍮もピカピカに磨き抜かれています。
内部は樋状になっており、そこを初留液が流れていくわけですが、外部にあるレバーの操作1つでその流れを検定器の浮かべてあるガラス器へと導くことも、また、定量の蒸溜水を加えることも出来る仕組みです。
この、初留から中留へと移り変わる一瞬に、蒸留職人の目と腕が試されます。
まだ濁っていると思えば元のタンクに戻して再度蒸溜します。
ウイスキーキャット
スコットランドの厳しい冬を凌ぐのには、暖かな蒸留室が持ってこいなので、どこからかふらりと猫がやってきて住み着いてしまうそうです。
ほとんどの猫は従業員の一員に加えられきちんとエサを与えられた上に立派な名前までもつけられています。
しかもペスト・コントロール・オフィサーつまり有害動物駆除員という職業まで与えられています。
その職務内容は主に大麦を狙うネズミやスズメを捕らえることです。
結構どこの蒸溜所にもいるので、スコットランドに行った際には気にしてみることをおすすめします。
まとめ
ウイスキー作りにはたくさんの職人たちの力を必要とします。
始めは農業者が大麦を作り、それを醸造職人がモルティング処理を施し糖化液を作ります、そしてそれに酵母を加え発酵させます。
すると次に蒸溜職人が蒸溜器を駆使してウイスキーを蒸溜します。
そしてペスト・コントロール・オフィサーが野生動物から原料を守ります。
こうしてたくさんの職人たちによってウイスキーは産み出されます。