海のウイスキー、森のウイスキー
シングルモルトウイスキーと一口に言っても、地域、熟成年数、特別なコンセプトボトルなどなど、無数にある蒸留所が無限のバリエーションを展開しています。
今晩はシングルモルトが飲みたいなと思っていても、それだけだと、あれやっぱりこういうんじゃなかったなぁ、と感じてしまうこともあるかもしれません。
そこでここでは、おおざっぱ過ぎるものながら、「今日飲みたいのは海のウイスキーなのか森のウイスキーなのか」という切り口で絞り込んでみましょう。
シングルモルトといっても多様
変な喩えですが、ラーメンを食べたいと思っても、こってりがよかったりあっさりな気分だったりと、とにかくラーメンだったら何でもいいのだというわけにはいかないはずです。
どんなシングルモルトが飲みたいのか、もう一歩踏み込んで気持ちを決めておくのも楽しいものです。
グラス一杯一杯をじっくり味わうお酒ですから、ぜひ方向性は定めておきたいところ。
今晩は、突き抜けるピートや魚介の燻製のような香り、粘りや揺らぎのある海系のシングルモルトが待ち遠しいかもしれません。
あるいは、あくまでカウンターに静かに佇んでいる、押しつけがましくないキレや静謐さを持った森系の一杯でしょうか。
潮の気分
海の香りが強いシングルモルトといえば、やはりアイラになるでしょうか。
ここでは、ラガヴーリン16年に登場していただきましょう。
ラガヴーリンの特徴は何といってもそのピート感、スモーキーさ。
おとなしく佇むタイプのウイスキーではなく、人によっては好みが分かれてしまうかもしれないほどに強烈で個性的な銘柄です。
海藻や潮だまりなどと形容されることもあるくらいで、つまり人によっては悪口に聞こえかねないほどの、「海のウイスキー」です。
ラガヴーリンを含め、こうした海沿いで造られるウイスキーの特徴が出てくるのは、海由来の成分を多く含んだピートで炊くためだとも、そのピートを通ってきた仕込み水を使うためだとも、長い熟成期間中樽はずっと潮風と呼吸するからだともいわれます。
きっと、そのどれもが理由なのでしょう。
他にも、キャンベルタウンのスプリングバンクなどはその塩っ気(ブリニーさ)で有名です。
海なご気分の時には、ここらあたりをあたってみることをおすすめします。
森林浴の気分
さて一方、「森のウイスキー」の代表選手には、サントリー「白州」に登場していただきましょう。
ご存知日本の誇るシングルモルトウイスキーですが、ここで注目したいのはその蒸留所の立地です。
ジャパニーズウイスキーはスコッチを参考にして創られたことは有名ですが、この白州蒸留所にはスコットランドのいかなる蒸留所も持っていない特徴があります。
標高と、海からの距離です。
一番近い海まで70km以上はあり、しかも間に富士などの山脈を挟みます。
蒸留所自体の標高も海抜700mもあり、その立地はまさに「山の中」、「森の中」。
スコットランドのどの蒸留所も、これほど海からの距離がある所はなく、標高も高くて半分程度だといいます。
さて、ここで造られた白州は、あくまで山・川・森といったものを連想させる味わいです。
蜂蜜や柑橘類、樹液、ハーブなどを思わせる、静謐な泉のような香りと味。
フィニッシュは長いものの、寄せ返してくるタイプではありません。
アイラやアイランズのものはもちろんなのですが、いくらか内陸部の蒸留所でもスコッチの場合だとどこか香る気がする海の匂いやダイナミクスは感じられず、力強い個性を持ちながらあくまでドライでクリーンです。
まとめ
とはいうものの、スコッチの中でも、海の気配が控えめなスペイサイドといった地域で造られるウイスキーもあります。
今日はあまりねっとり系じゃないな、というときは、「森」「山」なシングルモルトを意識してみると、よりにご気分に合ったボトルに出会えるかもしれません。
また逆に、今日はもう強烈に塩っ気やコクが欲しい、というときにはアイラやアイランズ、キャンベルタウンを選びましょう。
ざっくりしたものでご参考になるかわかりませんが、一つの切り口として、シングルモルトの「海系」「山系」という捉え方をご紹介しました。