アメリカ、コロラド州から。小規模蒸留所「ストラナハン蒸留所」のウイスキーを見てみよう。
アメリカを代表するアルコールといえば「バーボン」です。
しかし、それ以外のウイスキーとなるとちょっと弱いイメージ。
これはアメリカでかつて施行された「禁酒法」の影響が今に残っているからと考えられます。
禁酒法時代にアメリカのウイスキー業界は大ダメージを受け、ほとんどの蒸留所が姿を消してしまったのです。
アメリカの禁酒法についてと、再び復活の兆しを見せている小規模蒸留所を見てみたいと思います。
目次
アメリカのウイスキーは「禁酒法時代」に半壊!
アメリカを代表するウイスキーといえば、「バーボン」です。
アメリカの建国当時から作られていたウイスキーで、アメリカ国内でしか生産が認められていません。
そんなアメリカンウイスキーを代表するバーボンさえ、とある時代に流通がストップするという危機を迎えました。
「禁酒法時代」です。
この時代に、多くの蒸留所がウイスキーの製造を辞めざるを得なくなり、廃業においこまれました。
禁酒法ってどんなもの?
アメリカ合衆国における「禁酒法」とは「アメリカ合衆国憲法修正第18条」の下に施行された法律です。
1920年から1933年まで続き、この期間は消費のためのアルコールの製造と販売、輸送が全面的に禁止されてしまいました。
後に「Noble Experiment(高貴な実験)」と揶揄された法律です。
禁酒法の始まりは…
もともとアメリカには「アルコールは神からの贈りものである一方で、乱用は悪魔の仕業である」という明確なコンセンサスがありました。
飲みすぎという行為については非難の対象となりますが、アルコールそのものに対して否定的な意見は見られなかったのです。
しかし18世紀後半にアルコールによる健康被害の訴えが起こり、アルコールそのものに対する規制が叫ばれるようになりました。
そしてその後、敬虔なキリスト教徒の中でも主にメソジスト派が主導して禁酒運動が起こります。
1800年代後半には禁酒からアルコール摂取に関する全ての行いが反対されるようになってしまいます。
その後、宗教、人種問題、市場問題などが複雑に絡み合い、禁酒に賛成の「ドライ」派と反対の「ウエット」派に世論は分断。
禁酒法に反対するアルコール業界の足並みが乱れたこともあり、1919年に法案は議会を通過し、1920年には修正第18条が施行されるに至ったのです。
禁酒法でアメリカ中が混乱!
禁酒法後、人々が穏やかに暮らせるようになったかというと、決してそうではありませんでした。
禁酒法でアルコールの製造、販売、輸送は違法となりましたが、それでもアルコールを求める人々はなくならなかったのです。
蒸留所や販売店が消えても、密造酒があちこちでつくられ、それがマフィアたちの資金源となりました。
悪名高い「アル・カポネ」や「バグズ・モラン」といったギャングの多くは違法なアルコール販売を通して何百万ドルもの資金を稼いでいたのです。
窃盗や殺人といった当時の犯罪はほとんどがギャングや禁酒に絡むものでした。
この時の混乱で「連邦捜査局」の「禁酒捜査官」はギャングとの銃撃戦で500人以上の殉職者を出しました。
一般市民やギャングも2000人以上が犠牲になったと言われています。
禁酒法撤廃後も混乱は続く…
社会が混乱する中、禁酒法の撤廃が叫ばれるようになりました。
1933年、大統領であったフランクリン・ルーズベルトは禁酒法の撤廃を宣言します。
これによってほとんどの地域でアルコールが許可されるようになりましたが、アルコールの輸送をどうするかは州にまかせられたので、憲法改正後も禁酒を続ける州がありました。
今日でもアルコール類の販売を規制する「ドライ」な地域はアメリカに多く残っています。
また、禁酒法が施行された後、多くの蒸留所は廃業に追い込まれました。
アメリカ各地に存在していたウイスキーの蒸留所は大半が操業を停止していましたが、禁酒法撤廃後も再びウイスキーを製造することはありませんでした。
ウイスキーの他にもビールやワインも壊滅。
特にワインは醸造者が他国へ移住するなど被害が大きく、ワイン業界の知識も失われてしまいました。
復活の兆しがあちこちに!小規模蒸留所の誕生
禁酒法時代に「医療目的のため」としてウイスキーの製造を許可された蒸留所がいくつかあります。
それらは今日、大手メーカーとして大規模な生産を行っています。
どれもアメリカを代表するウイスキーメーカーですが、近年注目を集めているのが「micro distillery」と呼ばれる「小規模蒸留所」です。
大規模蒸留所とは異なり、少量のスピリッツのみを製造・販売しています。
ほとんどが地域密着型。
地域で栽培された原材料を使い、地域の中で製造を行います。
これらの小規模蒸留所は作り手のこだわりが顕著に現れます。
原材料の確保からラベル貼まで手作りという蒸留所は珍しくありません。
日本でも「地ビール」などご当地アルコールが流行しましたが、そのような感じでしょうか。
アメリカではウイスキー製造に関する規制が厳しく、大規模蒸留所以外はウイスキーの製造が困難でした。
しかし近年、規制を撤廃あるいは緩和する州が増え、ウイスキー造りを行いやすくなっているのです。
そのため多いところでは年間500もの蒸留所が新たに操業を始めるようになりました。
小規模といっても高い品質を誇るものも多く、人気のメーカーは発売前に大行列ができるそうです。
ストラナハン蒸留所
アメリカ合衆国・コロラド州デンバーにある小規模蒸留所です。
コロラド州では禁酒法以後、初めての認可蒸留所となりました。
ロッキー山脈の中心にあり、大麦を原材料にハンドメイドでつくられている、スモールバッチのシングルモルトウイスキーを製造・販売しています。
この地域では初めての小規模蒸留所であり、アメリカにおける小規模蒸留所ブームの先駆けとなったと言われています。
ストラナハン蒸留所の創業は2004年。
創業者は「ジェス・グラバー」と「ジョージ・ストラナハン」です。
ジョージ・ストラナハンはもともとビールの醸造所を持っていましたが、ある日そこが火事になりました。
ボランティア消防士として現れたのがジェス・グラバー。
火事の対応をするうち打ち解けた二人は、共同でウイスキーの蒸留所を作ることにしたのです。
なんとも不思議な出会いですが、ウイスキーに対する情熱をもっていた二人は2004年に最初のバッチを蒸留し、2006年にボトリングして販売。
滑らかで独特、風味豊かなアメリカン・シングルモルト・ウイスキーが誕生したのです。
ストラナハン蒸留所のこだわりとは
ストラナハン蒸留所ではモルティングからボトリングまで全て手作業で行います。
100%の大麦麦芽、酵母、ロッキー山脈の水と樽。
必要なのはこれだけです。
最高の資源だけを使用し、最高のコロラドウイスキーが造られているのです。
ストラナハン蒸留所のおすすめシングルモルトウイスキー!
コロラド州で最初の認可蒸留所「ストラナハン蒸留所」。
現在は大手リカーメーカープロラクモ社の所有となっており、ストラナハン蒸留所のウイスキーはアメリカ全土に販売されるようになりました。
独特の味わいで人気のウイスキー。
おすすめを見てみたいと思います。
ストラナハン コロラド ウイスキー
ストラナハン蒸留所の代表ともいえる、オリジナルのシングルモルトウイスキーです。
シンプルな黄色いラベルが存在感をアピールしています。
カラーは綺麗な琥珀。
カラメル、ダークチョコレート、バニラ、オークの香り。
このウイスキーがストラナハンの独特の風味やスタイルを体現しています。
スノーフレーク
毎年数量限定で発売されるシングルモルトウイスキーです。
チャーしたホワイトアメリカンオーク樽にて熟成。
その後シェリー、コニャック、ラム樽に寝かせることで独特の風味と味わいを持たせました。
毎年12月に蒸留所にて販売されます。
販売前には蒸留所の前に大行列ができるほどの人気です。
まとめ
小規模蒸留所の先駆けともいわれる「ストラナハン蒸留所」。
禁酒法時代に大打撃を受けたアメリカのウイスキー業界からも注目を受けています。
こちらの蒸留所では、ラベリングはインターネットでボランティアを募って行います。
お手伝いしてくれた人にはウイスキーと無料ツアーのチケットがもらえるとあって、大人気。
ストラナハンのサイトではおよそ2万人がボランティア待機中のリストに名を連ねているそうです。
これだけ見ても、ストラナハン蒸留所の人気がわかりますね。
日本でも入手はできるようですが、ちょっと難しいかもしれません。
もしどこかのバーで見かけたら、ストラナハン蒸留所のウイスキーを是非ためしてみて下さいね。