ウイスキーに利用される樽
紀元前1世紀のローマにはすでに樽が存在していたと言われています。
それまではワインやビールは陶器で持ち運びされていたのですが、軽量で壊れにくい樽の登場によって格段に運搬効率が良くなったと考えられます。
ウイスキーなどの液体をいれても漏れることのない樽を人間が手に入れる事ができたのは、木造船を建造する技術が進歩することによって、その応用で樽を思いついたからだと思われます。
和樽と洋樽
古代エジプトにはすでに木造船があったと言われています。
古代ローマではポエニ戦争に木造船を利用するために、森林が大規模に伐採されていました。
この時に曲線を描きつつも水が漏れない船底作りの技術も進歩したと考えられます。
古代ローマ人が用いていた洋樽は側面の板が曲げられていました、これに対して日本で室町時代移行に生まれたとされている清酒用の和樽は樽の側面のいたがまっすぐです。
しかし当初は洋樽も和樽と同じように建てに置いて使われていました。
現在のウイスキーなどに使用されている横にして置くタイプの洋樽が生まれたのはいつからかわかっていません。
木材
ウイスキーを貯蔵するための樽はホワイトオークやヨーロピアンオークと呼ばれる材から作られています。
オークは垂直に伸びる高木で、イギリスでは古木に迫力があることから森の王とも呼ばれています。
全世界には700種類のオークがありますが、ウイスキーの樽に用いられるのはブナ科コナラ属のもので、学名をクェルクスといいます。
クェルクスとはラテン語で美しい木という意味で、クェルクス属だけでも300種以上あり、日本にも数種類自生しています。
山に行ってドングリ状の実を付けているものがそうです、そして、その中でもドングリに強烈な苦味や渋みを持つモノが樽材に利用できるタイプのものになります。
この苦味と渋味は、樽材からウイスキーに溶出する成分であるタンニンなので、一度勉強のために食べてみることをおすすめします。
オークの種類
ホワイトオークがアメリカの北東部からカナダ南東部に分布しているのに対して、ヨーロピアンオークはヨーロッパ全土から北アフリカ、西アジアに分布していてサマーオークとも呼ばれています。
ヨーロピアンオークの主要樹種はコモンオークとセシルオークです。
コモンオークのうちフランスのリムーザンで算出されるフレンチオークはブランデーのコニャックの熟成に、スペインで算出されるスパニッシュオークはシェリー酒の熟成に用いられています。
日本のミズナラで作られたウイスキー用の和樽も注目されています。これは海外ではジャパニーズオークと呼ばれ国内ではミズナラ樽と呼ばれています。
これらのオークに共通する特徴はチローズと呼ばれる、キラキラ光る泡状の充填物が道管に詰まっていることです。
これは特にホワイトオークに顕著で、道管の周囲の柔組織がふくれて道管に出てきたものがチローズで、これが発達していると漏れが軽減されるので、ウイスキーの貯蔵用に適しています。
樽の種類
ウイスキーに用いられる樽は容量や形によって、普通は5種類に分けられています。
まず容量約480リットルの樽にはずんぐりむっくりしたパンチョン、スリムなシェリーバット、そしてミズナラ樽があります。
このうちシェリーバットは前述のスペイン産コモンオークで作られたシェリー酒用の樽で、シェリー酒の香りをつけるためにシェリー酒貯蔵後の樽を用いるのでこう呼ばれます。
容量約230リットルの樽は豚の頭という意味のホッグスヘッドと呼ばれています。
そして、最も容量の小さく約180リットルの樽はバレルと呼ばれています。
樽の影響
樽の種類によって、貯蔵後のウイスキーなどにの品質が大きく左右されます。
樽の容量が小さければ貯蔵されるウイスキーの単位容量当たりの樽の表面積が大きくなります。
つまりウイスキーと接触面積が広くなるので、ウイスキーの品質への樽の影響が強くでます。
樽の影響が強く出すぎるとウイスキーは品質のバランスを崩します。
これを俗に樽負けする、樽負けしているなどといいます。
パンチョン、ホッグスヘッド、バレルはホワイトオークで作られ、ミズナラ樽は日本のミズナラで作られます。
樽の自由
アメリカのバーボンウイスキーは新樽のバレルで貯蔵しなければならないと法律で決まっていますが、モルトウイスキーのスコッチやジャパニーズではどの樽を使用するかは自由で、製造者の作りたいタイプのイメージに合わせて選ぶことが出来ます。
ジャパニーズ専用と見られていたミズナラ樽もテレビCMでも流れているように、海外でも最近徐々に利用されはじめています。
ミズナラ樽で長期熟成させると、その原酒には複雑で多様な香木のような芳香をまとうと言われていますが、国際コンテストで高く評価されたサントリーの響は、ミズナラ樽を使用した香りが評価されたと言われています。
樽職人
蒸発しやすいエチルアルコール溶液を主成分とするニューポットを長期間にわたって貯蔵するには、漏れのないきっちりした樽に仕上げなければなりません。
逆に言うならきっちりした樽を作り上げることが出来なければ、ウイスキーの長期熟成ができません。
そのため良い蒸溜所には必ず樽作り専門の腕利きの樽職人が働いており、スコットランドではこの樽職人のことをクーパーと呼びます。
樽材の厚さ
樽材の厚さはバレル樽で25ミリ、パンチョン樽で32ミリです。
これほど厚みがある樽材を切り出すためには、樹齢100年のオークが必要と言われています。
しかも、樽材には柾目取りという無駄の多い贅沢な切り出し方を求められます。
柾目取りとは、中心の髄から樹皮に向かって放射状に切り出す方法です、このように切り出すとオーク材の道管と放射組織を切り出された樽材の表面に出さないようになります。
道管とは根から茎や葉に水分や養分を運び込むための通り道であり、放射組織は木の中心から樹皮へ向かって放射状に伸びる組織です。
どちらも水分液が通りやすい仕組みで出来ていますり。
樽にウイスキーを貯蔵する際、道管や放射組織が樽材の内側から外へ向かっていると道管や放射組織を伝わって樽の、中身が外に漏れ出してしまいます。
余分な水分や青臭い匂いが付かない様に樽材はしっかりと乾燥させられます。
樽の乾燥
生木の匂いがついてしまうとウイスキーの品質不良などの影響を起こします。
もう一つは漏れの問題です。
乾燥が十分でない木材を樽に用いて貯蔵すると、貯蔵中に乾燥が進んで収縮し、材と材の間にすき間ができてウイスキーが漏れてしまいます。
また、乾燥度の異なる材を組み合わせて樽を作ると、収縮度が異なるために材の特定箇所にひずみが生じ、割れやヒビの原因になってしまいます。
そういった事件を減らしていくために、樽に利用される木材は何年もかけて自然乾燥されます。
樽職人たちは樽に利用する木材を自然乾燥させることを、材を枯らすと言います。
たいていは貯蔵庫に近い涼しい日陰に樽材を運んで井形に積み重ね数年間乾燥させます。
効率の面では乾燥庫で人工乾燥させる方が遥かに早く乾燥しますが、急激に乾燥するために材にひずみが生じたり樽材の成分に変化が起こってしまいます。
まとめ
ウイスキーは、原料は丁寧な農作業で作られ、原料である大麦は均等に発芽処理を行われ、作られたモルトを丁寧にベストなサイズで粉砕し、適切な温度管理のもと醸造し、こだわりの単式蒸留器で蒸留されます。
これらの工程で丁寧に時間をかけられ作られた原酒は、最終的に樽職人が丁寧に確かな技術で作り上げた樽で長期熟成されます。
樽の出来が悪いと、これまでの努力が全て無駄になってしまうのでウイスキー作りでは樽が最も大切だと言われています。