スパニッシュ・ブランデーは魔法の呪文と共に。不思議なカクテル「ケイマーダ」
スペインには、ブドウの搾りかすから造られた「オルホ」というブランデーがあります。
グラッパ(イタリア)マール(フランス)などと同じような、「ポマースブランデー」(かすとりブランデー)の一種と言われています。
アルコール度数は高いのですが不思議と飲みやすいこのオルホ、スペインではごく日常的なもの。
そんなオルホを使用して、少し変わったカクテルを作ります。
それは「ケイマーダ」と呼ばれ、作り方はまるで魔術の儀式のよう。
どんなものなのでしょうか。
オルホって何?
スペインで愛されているポマースブランデー「オルホ」。
これはスペイン語で「搾りかす」という意味です。
ワインの製造過程で残ったかすを材料としているので、非常に安価に造ることが出来ます。
とはいえ最近はオルホ製造に特化した製造者もおり、オルホのために選び抜いた材料で製造を行っているとか。
そのようなものはポマースブランデーとは言えなかなかのお値段だったりします。
オルホの製造方法とは
通常のポマースブランデーと同様、オルホの原材料はワインを作った後に残ったブドウの皮や種、茎などです。
これらを大樽にいれて発酵させます。
その後、銅のかまで蒸留。
火種によって熱せられるのです。
北部スペイン・ガリシア地方で使用されてきた「alambiques(アランビケ)」と呼ばれる蒸留器では、通常6時間以上かけて蒸留が行われるそうです。
この蒸留器はムーア人によってイベリア半島にもたらされ、以後数世紀もの間ガリシア地方のオルホにとっては欠かせないものとなりました。
ガリシアの伝統的製法…
オルホはスペインの人々にとっては深く生活に根付いたブランデーでした。
家庭それぞれがレシピを持ち、代々受け継いでゆくものだったのです。
しかし、手作りは気軽で手軽に飲める一方、きちんとした製法を守らなければ危険が伴うものでもあります。
アルコールと火を使用しますからね。
大きな火災もあったようです。
さらにオルホにはハーブやハチミツなど、味付けも様々。
色々放り込んでいるうちに、有害物質が発生してしまった、という事例も珍しくありませんでした。
誰もがオルホを気軽に造れるようになるほど、粗悪品や不良品、まがいものが出回りました。
危惧を抱いた政府は、オルホの自家製造を禁止します。
代わりに政府認定の蒸留者を定めました。
政府の許可した蒸留監督官が各蒸留所を回り、蒸留を行って歩くのです。
こうして、蒸留の季節になると政府の蒸留監督官が姿を見せるのが恒例行事となりました。
現在そのような伝統的製法を行うところはほとんどありません。
しかし、オルホの本場ガリシア地方にはいまだ当時の伝統に従って可動式蒸留製造機で製造を行っているところがあります。
それではケイマーダって何?
スペインの国民的お酒・オルホ。
ケイマーダはオルホを使って造られ、不思議な儀式に使われる飲み物です。
特に北部スペイン・ガリシア地方のものです。
決められた材料とオルホを混ぜて造られます。
一般的には「セントジョンズ・ナイト」(聖ヨハネの夜)または「ウイッチナイト」(魔女の夜)と呼ばれる6/23日に行われるのが一般的です。
この儀式にかかせないものはオルホと、そして呪文。
これは、悪魔や悪霊を追い払うため。
呪文を唱えることによって、ケイマーダには不思議な力が宿るのです。
ケイマーダとケルト
ケイマーダで有名なのは主に北部ガリシア地方。
北の海岸は大西洋とカンタブリア海に面しています。
ガリシアという地名は古代ローマの属州だった「ガラエキア」から来ています。
古代にはケルト系の民族が住んでいました。
そのため今でもケルトの影響が色濃く残り、その血を受け継いだ人が多く残っています。
例えば、ガリシアの伝統的楽器「ガイタ」。
これはスコットランド伝統のバグパイプと同じです。
ガリシア地方の発音や語彙にもケルトの影響は多く見られ、スペインでもガリシアは「異邦」と言われているのです。
バグパイプ同様、ケイマーダもケルトの文化の名残と言われています。
悪霊を追い払うための儀式はもともとケルト民族が行っていたそう。
ケルトの僧侶ドルイド達が唱え、行った儀式が今なおガリシアで受け継がれているのです。
ケイマーダに必要なものは…
本格的に儀式を行うなら、まず欠かすことが出来ないのはケイマーダ用の陶器の鍋とカップ。
ガリシア地方では普通の食器屋さんにも置いてあります。
美しいテラコッタ色で、浅めの鍋に小さなカップがいくつもぶら下がっているものが一般的によく見られるものです。
持っていない人は金属製の鍋でも大丈夫です。
あとはレモンの皮とコーヒー豆。
そしてオルホ。
これと呪文さえあればケイマーダは完成します。
ケイマーダのレシピ
これは8人分のレシピです。
材料:
●オルホ…1リットル
●グラニュー糖…2/3カップ
●レモンの皮の千切り…1ケ分
●コーヒー豆…1/4カップ
作り方:
1.オルホ大さじ4とグラニュー糖大さじ1をグラスにいれよく混ぜ、砂糖を溶かしておく
2.残りのオルホとグラニュー糖を鍋に入れる
3.レモンの皮とコーヒー豆を入れ、よくかき混ぜる
4.グラスに入れておいたオルホとグラニュー糖をおたまにとり、火をつける
5.そっと鍋に近づけ、鍋のオルホに火をつける
6.炎が青くなるまでかき混ぜる
7.炎が弱まったらおたまで掻き出すように炎を消す
出来上がったら、熱いままサーブします。
オルホはアルコール度数40度前後ありますが、火にかけ、砂糖を加えることで、少し飲みやすく感じるでしょう。
ケイマーダを作る時はこれを唱えよう!
悪霊を追い出すためのケイマーダ。
そのための呪文ももちろん必要ですよね。
とても長いうえにスペイン語なので、すらすら唱えるのは非ネイティブには難しいです。
しかしなかなか興味深いものなので、少しだけご紹介したいと思います。
Conxuro da Queimada(ケイマーダの呪文)
Mouchos, coruxas, sapos e bruxas(フクロウ、バーンフクロウ、ヒキガエル、魔女)
Demos, trasgos e diaños,(デーモン、ゴブリン)
Espíritosdas nevoadas veigas。
(霧で煙る牧草地の霊)
…このように禍々しいものの名前をずらっとあげてゆき、呪文の最後に
Participen con nós desta Queimada.(ケイマーダに参加しよう)
と締めくくって終わりです。
この呪文が唱えられるのは、火をつけたオルホが青白く変わった時。
砂糖を溶かすためゆっくりかき混ぜながら行います。
ライトを消すのもしきたりだそうです。
青白い炎を囲んで、みんなで呪文を唱えるなんて、なんだかとても不思議な光景ですよね。
ケイマーダにおすすめのスパニッシュ・ブランデーは…
ケイマーダにしようするオルホに決まりはありません。
どうせお砂糖をたくさん入れて、アルコールを飛ばしてしまいますしね。
しかし、せっかくケイマーダを作ってみるなら、ケイマーダ発祥の地ガリシア地方のオルホがおすすめです。
これを使えば一層盛り上がるのではないでしょうか。
マーティン・コダック オルホ・デ・ガリシア・ブランカ
リアス・バイシャス地区にボテガ(酒蔵)を持つ、マーティン・コダック社のオルホです。
「シャルドネ」を凌駕すると言われるスペインのブドウ「アルバリニーニョ」を使用しています。
カラーはオルホらしく無色透明。
きりっとした飲み口で、ドライなのど越しです。
かすかに甘く、さわやかな後味が楽しめます。
ケイマーダにおすすめです。
まとめ
ケルトの伝統がスペインで生きているというのも不思議で、興味深いですよね。
呪文と共に頂くケイマーダとは、どんな感じなのでしょうか。
スパニッシュブランデー・オルホでなくてはならないというのも独特のこだわりを感じます。
スペインのガリシア地方では、地元のバルでケイマーダを提供しているところがいくつもあるそうです。
機会があれば本場のケイマーダを是非、試してみて下さいね。