ブランデーに対するイメージの原因と、その実態について
ブランデーといえば、思い浮かぶのはお金持ちが高級クラブで飲むようなシーンであったり、政治家や社長への贈り物であったり、非常に高級なイメージがあります。
そう考えるとなかなか手を出しにくく感じてしまうものですが、本当にそのイメージのとおりなのでしょうか。
いつ、なぜブランデーにそのようなイメージがついたのか、実際はどのような製品があって、どのように楽しまれているものなのか、ということについて触れていきます。
ブランデーの歴史
起源
ブランデーは果実酒を原料とした蒸留酒で、主に白ブドウのワインを蒸留し熟成したものを指します。
このような技術自体は、西暦1世紀ころからエジプトやギリシャで存在していました。
ワインを蒸留して飲むことはヨーロッパ全体に少しずつ広まり、7,8世紀ころになるとヨーロッパ大陸西端のイベリア半島・スペインまで伝わります。
それでも、ブランデーという名前が生まれるのはまだまだ先のことです。
フランスで本格的な製造が始まった
時は流れ16世紀ころ、フランス有数のワインの産地であったコニャック地方で転機が訪れます。
当時オランダとの貿易において、ワインの品質が落ちて大量に売れ残る問題が起きていました。
そこでオランダの商人が、保存性を上げる目的でワインを蒸留して輸送しました。
それまでワインの蒸留酒は「焼いたワイン」と呼ばれ、主に薬酒として飲まれていた程度だったのですが、コニャックの「焼いたワイン」は意外と美味しく、オランダで評判となりました。
一つのお酒として認知され、そのうちオランダ語の「ブランデ・ウェイン」から「ブランデー」と呼ばれるようになったのです。
人気に火が付き輸出量が急増したことで、フランスでは本格的にブランデーの製造が広まっていきます。
原料となるブドウの違いや製法の違いなどから地域によって様々なブランデーが作り出され、樽熟成の技術も高度になっていき、やがて製造法は世界中に広まって行きました。
現在ではヨーロッパ以外でもアメリカや南米、オーストラリア、日本、ロシアなどたくさんの国でブランデーが作られています。
高級なイメージの原因
原因はルイ14世?
オランダ商人の偶然のアイデアでブランデーのおいしさが認知された後、フランス中に製造が広まった17世紀はじめ頃には、その魅力は国王のルイ14世のもとにも伝わることになります。
ブランデーを気に入った国王は、ブドウ酒以外から蒸留酒を作ってはならないという法律を作り、ブランデーを保護する立場を表明しました。
国王に愛されたブランデーは「王侯の酒」と呼ばれ、高い地位をもったお酒となり、ヨーロッパ各国の宮廷で飲まれるものとなりました。
現在の高級なイメージはそこから来ているという説があります。
メーカーのイメージ戦略
現在のブランデーでは、大手メーカーの高品質のものには見るからに高級そうな瓶や箱が使われていますが、分かりやすく高級感があるように見せていることには狙いがあります。
高級なものを買ったのだという満足感や虚栄心を満たしやすいもののほうが、買ってもらいやすくなります。
生産数が少ない希少なものになると、誰が手に入れるかで競い合いが起こって元々の価格よりもずっと高くなったり、年月が経ってさらに高額になるのを見越して投資のような買われ方をされたりします。
前述のコニャック地方のブランデーと、同じくフランスのアルマニャック地方のものは世界の2大ブランデーであり、最も有名な二つが高級酒として扱われているので、ブランデーは高級なものだというイメージが固まってしまうのは無理もありません。
高価になってしまう理由
ワインを醸造してからさらに蒸留しているということは、仮に同じブドウを原料にしたとすると、ワインよりも手間がかかっているだけブランデーは高価なのだというのは想像に難くないでしょう。
それに、最終的にいくつかの熟成年数のブランデーをブレンドして一つの商品を作っているので、それだけ貯蔵数もそのコストも膨大なものとなります。
そういったことから、採算をとるには他のお酒よりも高価になってしまいます。
ブランデーの実態
全てが高級酒なのか
確かにブランデーは他のお酒に比べて高級なものですが、すべてのブランデーが桁違いに高額かといったら、決してそういうわけではありません。
ブランデーにも種類がありますし、品質や価格を決定する基準もあり、高級品から低価格のものまで様々です。
最高級品を手に入れたい人も手軽に楽しみたい人も、どちらにも適したブランデーが見つかるようになっています。
ブランデーの種類
ブランデーの中にもカテゴリーがあり、違うお酒のように区別されています。
まず世界2大ブランデーのコニャックとアルマニャックです。
コニャックは、コニャック地方周辺の独特な土壌で育った、糖分が少なく酸味が強い「ユニブラン」という品種のブドウを原料とし、醸造したワインを単式蒸留器で2回蒸留するという製造法をとります。
この原料と方法で蒸留してから、オーク樽で最低でも3年以上熟成して初めてコニャックの名を使うことを許可されます。
この基準はフランスの法律で定められており、コニャック地方で栽培されなくても基準を満たしていればコニャックを名乗ることができるので、ヘネシー、カミュ、レミーマルタン、マーテル、クルボアジェの5大ブランドをはじめとして、現在世界には800以上の銘柄が出ています。
アルマニャックも同じように、使うブドウと製法には厳しい基準が定められ、それを満たしたブランデーだけがアルマニャックと名乗ることができます。
それから、フランスでつくられても2大ブランデーの基準に満たないものは単にフレンチブランデーと分類されます。
ワインを作った後のブドウの絞りかすを使ったブランデーでは、フランスのマール、イタリアのグラッパなどがあります。
ブドウ以外の果実酒を蒸留したブランデーもあり、リンゴが原料のフランスのカルヴァドスが最も有名です。
こんなふうに様々なブランデーがあり、さらにその中で様々な銘柄がつくられているという構造になっています。
価格はどうやって決まるのか
価格を決める主な要素は、「原料」、「産地」、「熟成年数」の3つです。
原料のバリエーションはブドウ以外にも、リンゴ、洋ナシ、オレンジ、ラズベリーなど豊富ですが、原料が貴重であればできるブランデーも高価なものになります。
同じブドウでも、貴重で上質なブランデーの作れる品種ほど高級品となります。
次に、産地の違いは畑の土壌や気候を左右し、原料の品質に影響を与えるほか、名産地ならばそこの名前自体にも価値があるので、価格が上がります。
そして、熟成年数はブランデーの風味を変化させ、長く熟成させなければ出せない香りや甘味を生み出します。
熟成に時間をかけたものは希少価値も上がり、高価になります。
熟成年数は、ブランデーの等級の表示を見ることである程度知ることができます。
長く熟成するにしたがって、1~3つ星、V.S.(Very Special)、V.O.(Very Old)、V.S.O.P.(Very Superior Old Pale)、ナポレオン、X.O.(Extra Old)、などという等級がつきます。
ただし、熟成の度合いと等級表示に明確なルールが定められているのはコニャックとアルマニャックだけであり、その他のブランデーでは基準があいまいで、高い等級がついていても品質が保障されているとは限りません。
それ以外にも、生産数の少ない限定品や現存数があまりないものは価格の高騰がおこるなどの要素もあります。
複数の要素が重なり、ブランデーの価格は数千円から100万円以上するものまで非常に幅広いものとなっています。
ブランデーの楽しみ方
価格によって適した楽しみ方がある
ブランデーの魅力の一つは、原料に果実を使用しているだけあって香りが豊かなことです。
ストレートで冷やさずに飲み、香りとともにまろやかな味わいを楽しむのが最も一般的ですが、ブランデーの品質そのものがもろに感じられるので、それなりに上質なものでなくては向いていません。
その代わり、ブランデーにはストレート以外にも様々な楽しみ方があり、安価なものでも美味しくいただく方法があります。
ニコラシカやスプリッツァー、オリンピックなどのカクテルをバーで楽しんだり、自家製フルーツブランデーを作ってみたりと、さまざまです。
ストレートはアルコール度数が高いので、お酒が強くない人にはむしろこちらのほうが美味しく飲めます。
フルーティな風味やブランデーの中のポリフェノールに健康・美容効果があることに着目すると、女性におすすめのお酒だということもいえます。
まとめ
高級品ばかりでお金持ちが飲むお酒だというイメージとは違い、実際は価格帯も楽しみ方も様々の、万人が楽しめるお酒でした。
もちろんお金持ちの間で流通するような希少な高級酒もあり、イメージ通りの楽しみ方をしている人たちもいます。
宮廷や上流階級で楽しまれる王侯の酒だった時代もありました。
しかし、今ではたくさんの種類があり、ブランドやメーカーもたくさんあり、ブランデーの世界はとても広いのです。
何となく手を出しにくいと思っていた人も、自分が飲んでみたいと思った飲み方で、ためらわず一度試してみてはいかがでしょうか。