ウイスキー造りの第一歩、モルティングについて
よく「シングルモルト」などと言う時の「モルト」とは実際何を指しているかご存知でしょうか。
大麦のことかというと微妙に違って、適度に発芽させ糖化・発酵に最適な状態に仕上げた「大麦麦芽」のことをいいます。
ここでは、ウイスキー造りの始まりといえるモルティング・製麦の過程、大多数となったモルトスター(製麦専門業者)への精麦依頼、伝統的なフロアモルティングのへのこだわりなどについて少しご説明します。
大麦の発芽と乾燥のタイミング
製麦という工程では、まず大麦に水分を含ませ、発芽を促します。
これにより麦芽内の酵素でデンプン質が糖化されていく状態になります。
この糖こそがアルコールの素で、来たるマッシング・麦汁造りの工程へと回されていきます。
そして、発芽が進みすぎては悪影響があるため、理想の状態で成長を「止める」必要があります。
方法は乾燥させることです。
乾燥工程では石炭やピートが焚かれ、香りづけにも重要な役割を担っています。
この時まだ水分が多く含まれた状態でピートが焚き込まれるとよりスモーキーになり、乾燥が進んでからであれば穏やかな燻製香を持つものとなります。
もちろん、より長時間焚かれればよりスモーキーに。
また、ブルイックラディ・ザ・クラシックラディなどの全くピートを炊き込まない銘柄もあります。
製麦専門業者、モルトスターたち
以上のような製麦の工程は、伝統的には各蒸留所が広い床に大麦を広げて行う「フロアモルティング」だったのですが、現在ではモルティングを専門に行う「モルトスター」と呼ばれる業者を採用するのが一般的です。
専門化による効率化、機械化によるコストダウンや安定性といったメリットが確かにあり、ウイスキーのクオリティを保てるより良い選択肢として、多くの蒸留所がモルトスターに製麦を依頼しています。
有名な例では、ポートエレン蒸留所はその高い品質を惜しまれながらも1983年に操業を停止、ウイスキーの生産はストップさせました。
しかし以降も、モルトスターとしてモルティングを専門に運転しています。
伝統にこだわってほしい、けれど
古き良きスコットランドウイスキー、と聞いた時にどうしても少し違和感を覚えてしまいがちなこうした機械化・効率化ですが、今では多くの蒸留所が「専門家」、つまりモルトスターに任せるという選択をし、なお品質を保ち続けています。
モルトスターに委託することは悪いことでもなんでもなく、望み通りのレシピで麦芽が正確に供給されるという、優れた分業システムの一環となっています。
機械化によるコストダウンや効率化はそのままボトルに乗る値段に影響しますし、餅は餅屋ということもできるでしょう。
ボトルの個性を左右する製麦のレシピ
各蒸留所がモルトスターに渡すレシピには、大麦の種類はもちろん、ピートを炊き込むタイミングや時間も書かれているといいます。
数多くのスコッチウイスキーで特徴となっている泥炭の風味・ピーティさですが、これは麦芽の乾燥工程でピートを焚き込む際の水分含有量や焚き続ける時間といった要素で大きく変わるものです。
ピートだけで乾燥させては煙すぎるため、その使われる量も細かく指定されます。
アイラのように海藻を多く含んだピートなのかスペイサイド上流のようにヘザーを多く含むものなのか、といったピート自体の種類も、もちろん大変重要なファクターです。
変わらぬ蒸留所もある
一方、少数ながら頑なにフロアモルティングを続けている蒸留所もあります。
ボウモアやラフロイグ、スプリングバンクなどが有名ですね。
スコッチには、変わらないことを矜持とするメンタリティがあり、昔ながらのフロアモルティングを変えないこと自体にも信頼できる誇りや伝統を感じます。
実際に、ラフロイグ、スプリングバンク、ハイランドパークといったフロアモルティングを守り続けている蒸留所は高く評価され続けてきており、わずかな樽の位置のズレ、貯蔵庫内に生えたキノコさえそのままにしておくというスコッチらしい伝統主義は確かな信頼・価値を持っていると言えるでしょう。
なかなか難しいとは思いますが、スコットランドに旅行する機会があれば、ぜひ歴史あるフロアモルティングを見学してみることをおすすめします。
まとめ
シングルモルトウイスキーならば使われる原料は大麦のみで、それにもかかわらずあれだけの様々な個性を持った銘柄が存在しています。
この大麦をどう準備万端のモルトに仕上げるかは、大きな違いとなって表れているはずです。
モルトスターへの委託で正確・安定した麦芽を入手する道を選ぶ蒸留所が多いのも当然ですが、伝統のフロアモルティングにはやはりそうでなくてはならない何かがあるのでしょう。
ウイスキー造りの第一歩であり重要な工程、モルティングについて少しご紹介しました。