日本酒における酒米の品種
美味しい日本酒を作るのに必要なのは優れた醸造技術だと、そう言われた時代から今変わりつつあります。
杜氏の知識、経験値、判断力、それは昔から変わらず今も尚、酒蔵の知恵となり力ですが、日本酒は米の酒だという所にも目を向けた人々は原点回帰して米を育てはじめ、純米だから良いというだけでは飽き足らず品種への理解も深めようとしています。
酒造好適米の条件
酒米品種の名称によく錦が用いられておりますが、これは酒米の中心部に位置する心白の部分を見立てた呼び名だといわれています。
心白は澱粉の組織が薄く疎の状態になっています、そのために澱粉が粗く白い結晶が出ているように見えます。
この柔らかく澱粉の粗い部分があることによってアスペルギルス属の麹菌が米の中心部まで食い込み、さらにもろみの段階で米が溶けて味が出やすくなります。
山田錦
昭和11年に品種登録されてから酒米の王者として君臨し続ける山田錦。
飯米では品種改良が次々と進み新しい品種が続々と生まれ出でる中にあって、登場以来約90年を経て今なお輝き続ける不世出の名酒米です。
この米の優れた所にはまず、米質が柔らかく良い麹を作ることが出来るといった醸造適性があげられます。
さらには深く伸びやかな味わいを生み出す酒米として、とにかくその旨みの乗った味の良さから、多くの人々を魅了してやまないのが山田錦です。
山田錦の需要拡大
山田錦が日本全国あまねく利用されるようになったのは、吟醸酒ブームが巻き起こった昭和60年には以降になります、昔から主要産地であった兵庫県を中心とする関西地方や、東日本でも一部の日本酒メーカーしか手に入らなかった希少品種でしたが高精白が可能で複雑で香り高い酒を生むため、吟醸酒作りに最も適した酒米として一気に日本全国の酒蔵からの需要が高まりました。
そしていまや酒造好適米としては全国作付面積ナンバーワンを誇り、全都道府県の日本酒メーカーで利用される酒米になっています。
一般米を含めてみても1番多くの酒蔵で利用されていることに間違いありません。
五百万石
米所として有名な新潟県で県米生産量が五百万石を超えたことから命名された品種です。
昭和32年新潟県で開発されて以来、福井県、富山県、島根県など日本海沿岸の各府県を中心に広く普及し、昔は一時酒造好適米の中で最も人気を誇り全国作付面積ナンバーワンだったこともある品種です。
酒米の中では収穫期が早い早稲種であることも、北日本や山間部などの寒冷地で作付けが広がった要因です。
五百万石の特徴
この五百万石で作られる日本酒は、山田錦や雄町といった他の酒米で作られる酒と比べると少し淡白な味わいに感じる傾向がありますが、わずかにどこかしら植物由来の風味を感じさせる落ち着いた飲み口に特徴があります。
淡白辛口を特徴とする新潟酒も新潟で生まれたこの五百万石の特性を踏まえて、すっきりとした酒質を確立した面があるように思えます。
派手な味わいではありませんが、穏やかな食事中向けの日本酒を生む米として地域の文化と寄り添ってきたことも、50年以上にわたり酒米のベストセラーとして定着してきた理由かもしれません。
酒造好適米の条件としていわれる心白が大きく現れるのもこの五百万石の特徴ですが、澱粉の組織が柔らかくなっているこの部分が大きいと高度に精米すると米が砕けてしまうというような難点があります。
そのために五百万石が大吟醸酒に使用されることがあまりありません。
美山錦
美山錦は同じく酒造好適米のあかね錦の突然変異種として昭和53年に長野県で生まれました。
耐寒性が強く寒冷地での栽培に適した品種として、現在も長野県をはじめ秋田県、岩手県、山形県、宮城県などの東北地方で多く栽培されています。
濃厚で力強い味わいというよりも、どちらかというとフレッシュで若々しい味わいでみずみずしい日本酒が生まれます。
雄町
雄町は幕末以来約150年以上もの長い間、他の品種と混ざり合うことなく栽培されてきた純血種です。
食用米を見渡してもこのように息長く栽培されてきた品種はほとんどありません。
安政6年(1859年)に備前国高島村雄町(現在の岡山県)出身の岸本甚造により発見されたこの品種は遥かに時を経て岡山県軽部村(現在の赤磐市)の村長であった加賀美章の人力により酒米として脚光を浴びることになりました。
しかしながら昭和50年代には栽培面積がわずか6ヘクタール2まで落ち込み、絶滅寸前になりました。
ですがその後の吟醸酒ブームが追い風になり、現在では作付面積が第4位になるまでになりました。
ただ気難しい品種とされており、米が溶けやすいため味が出すぎないようにする杜氏の腕前が必要になります。
八反錦
日本酒の銘醸地、広島県を代表する酒米で正式には標高200メートルから400メートルまでを栽培適地とする八反錦1号とそれ以上の高地や寒冷地での栽培に適する八坂錦2号の2系統に分かれます。
また、これらの親品種である八反35号はそのルーツとなる八反草から続き大正時代から何度かの改良を経て現在も作付けされ八反錦とはまた別に日本酒造りに利用されています、これらを総称して八坂と呼ぶケースもあり最近では八坂ファミリーとして共に有名になりつつあります。
他県での栽培もあるにはありますが、基本的にはほとんどが広島県で栽培され、県内の酒蔵にて日本酒に利用されています。
新しい品種たち
酒米も毎年改良がなされ新しい品種が生まれています。
越淡麗は酒米のキング・オブ・キングである山田錦とそれと共に2大品種と称される五百万石との交配種で、いわば酒米のサラブレッドのような品種です。
新潟酒に特有な淡麗を名に称されている品種ではありますが、味わいはふくよかで濃厚に仕上がります。
芳醇旨口という最近のトレンドのなか、だんだんと注目を集めるようになったのが愛山です、愛山はもち米の血が混ざっているといわれるように独特の甘味を持つのが特徴です。
父方の花粉親品種は山田錦と雄町の交配種という血統の優れた品種ですが、他の米とは明確な違いがあります。
大粒が条件である酒造好適米の中でも特別大きく、心白も非常に大きいので甘味を強く出します。
ポスト山田錦といわれる吟のさとという品種は、山田錦の収穫量が多い福岡県で生まれました。
日本酒マニアにはおすすめの品種で、山田錦に負けず劣らずの伸びやかな味わいがある品種です。
そもそも元になった品種が山田錦ということもあり、味わいの要素をバランスよく配し堂々とした風味をもっています。
背が高く強風で倒れやすい山田錦の難点を克服し、収穫量が増えたなどの改良点が見られます。
新しい品種ではないのですが、各地で古くに廃れてしまった品種の中でも優れた物を復活させ日本酒造りに利用している復活米と呼ばれる物もあります。
代表的なのは強力(ごうりき)という品種で、濃厚で太い味わいの日本酒を生み出しています。
アミノ酸が豊富で、醇味のある力強い味わいが特徴で、近年鳥取県で復活した品種です。
まとめ
弥生時代では米を口で噛み、アミラーゼ酵素による澱粉の糖化を図りそれを発酵させて作っていた酒ですが、時の流れにしたがって酒も進化し、その造り方には優れた知恵がこめられ、酒蔵自ら米を育てる時代になりました。
そのため、多くの酒米品種が生まれ、または古くに優れた品種たちが復活したりなどこれからも日本酒は進化していくのだと思います。